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【欅坂小説】欅坂の道化師【2冊目】
- 713 :ニャンコ坂46:2018/09/10(月) 20:36:11.10 ID:qOCfMOZIM.net
- 「あんたの方が、よっぽどマニアックじゃない。アディール・コンシールなんて」
芽依が煽りがちに言った通り、その男の手にしている銃は他とは少し違っていた。史帆へと銃口を向けている大男の銃はデザートイーグル。しかし、この男の銃は小型であり、まるでスマートフォンのイヤホンジャックに銃口が空いているようにも見える。しかも二つ。
「あら、知ってるの?やっぱりお嬢ちゃんってばマニアック」
それは、まだ売り出されたばかりの銃だった。それを手に入れているという事は、何らかの組織に属している人間に違いない。
- 714 :ニャンコ坂46:2018/09/10(月) 20:37:35.58 ID:qOCfMOZIM.net
- 「おじ様って何者なの?」
背後に立つ男から再び鳴滝へと目を向けた芽依が飄々と問いかけた。
「おじ様?」
鳴滝が答えるよりも早く、アイシャドウの男が呆れたような声を上げていた。
「鳴ちん、あーたおじ様って柄じゃないでしょ?」
「そうか?結構、ハマってると思うが」
「答えて!」
アイシャドウの男と鳴滝の間に交わされる言葉を、芽依の怒声が遮った。
- 715 :ニャンコ坂46:2018/09/10(月) 20:38:35.86 ID:qOCfMOZIM.net
- 「何者も何も、俺はただの貧乏探偵だよ。前にも言っただろ?」
「ふざけないで!」
「ふざけてなんかいないさ。それ以外に無いんだからな」
引き金に力を込めた芽依の指を見ながら、鳴滝はそう答えると頭を掻いて溜め息をひとつついて背を向けた。
「鳴ちん、あーたってつくづく女運が無いわよねぇ……」
「それに関しては放って置いてくれ」
アイシャドウの男を見る事もなく、鳴滝は二つ目の溜め息と共にそう吐き出した。
「クロウ……」
言葉に詰まった芽依の後ろで、憎しみにも似た眼差しで鳴滝を睨む史帆がそう呟いた。
「さっきからクロウ、クロウって……。そんなに俺を殺し屋の殺し屋って事にして撃ち殺したいのか?」
呆れ顔のままに振り返った鳴滝が、銃口を向ける史帆へと振り返った。
- 716 :ニャンコ坂46:2018/09/11(火) 07:43:31.31 ID:KK2PhxTad.net
- 「だったら撃ってみろ。何の証左も無しに撃ち殺して悦に浸るのが君の望みならばな」
一瞬にして豹変した鳴滝の眼光に、史帆は硬直していた。
「アナちゃん」
アイシャドウの男がそれだけ言って目配せをすると、史帆へと向けていた銃口を大男が下へと降ろした。
どこからか出航を知らせる汽笛が響いた。
それを合図としたかのように、鳴滝が動く。
史帆の放った弾丸を寸前でかわし、いつしか手にしていたボールペンを鎌のように使って史帆の腕を絡め取った鳴滝は、史帆の銃を奪い取りその銃口を彼女へと向けていた。
その行程は一瞬であったが、その一瞬のうちに芽依もアイシャドウの男により制圧されていた。
- 717 :ニャンコ坂46:2018/09/11(火) 07:44:51.03 ID:KK2PhxTad.net
- 「昨日の夜、この島のショッピングモールの駐車場で話したよな……」
史帆へと銃口を突き付けながら、鳴滝は囁くように彼女の耳元で囁く。
「相手の力量を測れる奴が生き残る」
まるで挑発するかのような彼の言葉に歯をくいしばる史帆の耳元で、鳴滝は尚も言葉を続けた。
「だが、幸運だったのは、俺達がお前らの敵じゃないって事だ」
その言葉に、史帆の顔から憎しみの表情が消え去った。
「飛鳥!まだいるんだろう?出て来い」
それまでの緊張感を解くように、鳴滝があっけらかんと何もない中空へと向けて語りかける。その名前に息を呑む芽依と史帆の目の前に、名を呼ばれた存在が紫の光と共に姿を現した。
- 718 :名無しって、書けない?:2018/09/11(火) 13:44:12.54 ID:za68Fhd0a.net
- いよいよ目が離せない展開になってきた
- 719 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 06:54:08.21 ID:22J5MNyhM.net
- 幻影なのか。中空から舞い降りた女の肌は、淡い紫の光から現実味を帯びた色を取り戻し、その長い黒髪は潮風を受けてなびいている。
「どう言う事?あなた、何なの?」
アイシャドウの男に組み伏せられながらも、芽依はその目を見開いていた。
「そんなに驚く事でもないだろう。飛鳥も君達と同じ『魔動核』から力を得た一人さ」
現れた飛鳥に代わり、鳴滝が芽依の問いへと答えを返した。
「私達とは……違う……」
鳴滝が構えた銃口の先で、史帆が弱々しく呟いた。
「確かにな。どう言う理屈かは知らないが、同じ魔動核から力を得たにも関わらず、君達と飛鳥は違う。おそらくは、あの忌まわしい実験の副作用なんだろうが」
鳴滝が言うように、その違いは力を発動した時の瞳の色からも判別出来る。平手友梨奈をはじめとする「大日本帝国陸軍軍事機密第四○四号」と名付けられ、この島に運び込まれたもうひとつの魔動核のキャリアも同じく、その多くの瞳は金色に変化するのだ。
だが、この飛鳥の瞳は紫色に変化している。
「もう一人、知ってる。紫の瞳を」
「そいつは誰だ?」
芽依が漏らした言葉に、鳴滝がすかさず喰いついた。
- 720 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 19:51:58.97 ID:vhbROAQwM.net
- 「今泉……佑唯」
その名前で尾関梨香の顔が先に浮かんだ鳴滝の隣で、それまで無表情だった飛鳥の瞳に感情が宿っていた。
「佑唯……佑唯……」
「知っているのか?」
その名を繰り返す飛鳥の異変に、鳴滝は堪らずそう問いかけていた。
「今泉佑唯。アスカ・プロジェクトのもう一人の被験者よ」
「なんだと……他にもいたのか?」
今度は、はっきりとした口調で芽依が言葉を返した。だが、その瞳は怒りを含んでいる。
「知らなかったの?飛鳥と一緒にいるくせに」
「好きで一緒にいるわけじゃないからな」
「わけわかめ」
「とにかく!」
呆れた芽依の声を鳴滝が強引に遮った。
- 721 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 19:53:29.42 ID:vhbROAQwM.net
- 「お前らダイスが探しているもうひとつのの魔動核は平手友梨奈が持っている。そして、それを狙ってマグスが動き出した。つまり……」
そこまで語った鳴滝は、史帆へと向けていた銃を降ろして、彼女の右脚のホルダーへと差し込んだ。
「俺達の目的は同じだ。あのサイコ野をぶっ飛ばして魔動核を守る。違うか?」
「違う!」
未だアイシャドウの男に組み伏せられたままの芽依が、鳴滝を睨んだ。
「私達の目的はひとつ。魔動核の奪還」
「そんな事は百も承知だ。悪いが俺はあんな石コロになんざ何の興味もない。好きにすれば良い。だが、それもマグスを倒してからの話しだ。だよな?岡ママ」
そう鳴滝に問われたアイシャドウの男は、しゃなりとその首を傾げた。
- 722 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 20:17:15.65 ID:vhbROAQwM.net
- 「でも……もっと綺麗になれる力をもらえるなら、その石コロ欲しいかも」
「魔動核でも、それは無理だろう。本物の化け物になるだけだ」
「鳴ちん!化け物ってなによ!」
鳴滝の言葉に激昂したアイシャドウの男の一瞬の隙をつき、芽依は拘束を解いて再び銃口を鳴滝の額へと向けていた。
だが、鳴滝もその左手の人差し指と中指を芽依の喉元へと押し付けていた。
その硬直した状況の中で、芽依はひとつの明確な答えに気付き息を呑んだ。
「クロウ……それって……」
「それ以上語るな。俺は君を失いたくない」
その謎の会話がもたらした僅かな沈黙の後、芽依は手にしていたライフルの引き金から指を外した。
- 723 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 20:27:13.96 ID:vhbROAQwM.net
- 「あいつが……来る……」
その小さな顔のこめかみを両手で抑えた飛鳥が、震える声で鳴滝へと訴えた。その尋常ではない彼女の怯え方に、鳴滝はあいつが誰かを悟って表情を強張らせた。
「あいつって、まさか」
「ああ……その『まさか』さ」
ライフルを構えたまま目を見開いた芽依へとそれだけ言って、鳴滝はその何者かの気配を探るように目を閉じた。
その彼の様子に、銃を手にした者達は鳴滝と飛鳥を中心にして四方へと銃口を向けながら『あいつ』の襲来に備える陣形を取っていた。
「何処にいる……」
その鳴滝の呟きと重なるように、この海岸へと続く小道の方から、落ち葉を踏みしめるような人の足音が近づいて来るのが聞こえて来た。
- 724 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 22:25:41.74 ID:pWq8uZMJM.net
- 芽依と史帆、そしてアイシャドウと大男の銃口が一斉にそちらへと向けられる。
「これはこれは。皆さんお揃いで」
黒く長い髪を後ろでひとつに束ね、丸眼鏡の奥で細い目に冷たい気迫を宿した男が皆の前に小道から姿を現したのはほぼ同時だった。
「飛鳥……こちらへ来なさい。君をその苦しみから解放出来るのは、その男じゃない」
向けられた四つの銃口さえ気に留める素振りも見せず、その男は飛鳥へと向けて足を踏み出していた。
「マグス!それ以上、動くな!」
瞳を金色に変えた芽依が叫ぶ。だが、マグスはその歩みを止めるどころか、芽依の構えたライフルの銃口の前に自らの胸を差し出した。
「ほぅ。君も能力者ですか。しかし、君の力では今の私は撃ち抜けませんよ。試してみなさい」
臆する事もなく言い放たれたマグスの言葉に、芽依は迷わずにその引き金を引いていた。
乾いた破裂音が響く。だが、その弾丸は虚しく宙を切って小道を覆う林の枝のひとつを落としたのみだった。
「虫ケラがいくら寄り集まったところで、所詮は虫ケラです。諦めなさい」
そう言い放ったマグスの視線は目の前で絶望する芽依にではなく、既に鳴滝の背後に立つ飛鳥へと向けられていた。
- 725 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 22:27:50.58 ID:pWq8uZMJM.net
- 「諦めるのはお前の方さ。しつこい男は嫌われるぜ」
それまで目を閉じていた鳴滝が、そこでやっとその目をマグスへと向けた。
「鳴ちん。あーたみたいに、あっさりし過ぎるのもどうかと思うわよ」
銃撃が無効だと悟ったのだろうか。アイシャドウの男は銃を降ろして呆れ顔で鳴滝へとそう苦言を呈した。
「いや、俺の場合は、ほら、一途って事さ」
「一途って言葉が一番似合わないのは、鳴ちん、あーたでしょ?」
目の前に現れた脅威さえ関係ないように淡々と繰り広げられるこの男達の会話に、芽依だけではなく史帆さえも驚愕に言葉を失っていた。
「さぁ、私の元に来なさい。新しい世界を共に築こうではないか」
マグスは右手を飛鳥へと差し向けていた。
「どうする?飛鳥」
「嫌だ……」
鳴滝の問いかけに、飛鳥は尚も怯えた表情でそれだけ答える。
「だったら……立ち向かえ。お前の方が強い。それは俺が保証する」
「鳴滝君。君の言う強さとは何ですか?」
飛鳥の返答を遮るように、マグスが言葉を挟んだ。
- 726 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 22:29:42.93 ID:pWq8uZMJM.net
- 「うるせぇ。てめぇで考えろ」
鳴滝の荒い語気に同調し、彼の背後で薄紫の閃光が周囲を包み込んだ。
「来ないで……」
怯えから憎しみへと変わった飛鳥の瞳の色が、その右手からマグスへと撃ち放たれた。
紫の光の筋が彼の胸を貫く。一瞬後ろへと仰け反ったマグスだったが、苦悶の表情は直ぐに歓喜へと変わっていた。
「良いですね、その目。その憎しみに満ちた目こそが私のしもべに相応しい」
「しもべ?それが本音か」
悦に浸るマグスの言葉尻を掴んだ鳴滝がそう言い捨てる。
- 727 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 22:30:28.37 ID:pWq8uZMJM.net
- 「優れた猟犬は優れた狩人の元に育つ。違いますか?」
「飛鳥を犬扱い……やはり、てめぇはクズだな」
上目遣いにマグスを睨んだ鳴滝が左手を構えた時、その袖口から白い紙片が足元の小石の上へと舞い降りた。
「式神?……川口玲子か!」
眉間に皺を寄せたマグスがそう叫ぶと同時に、背後の林の小道から鳴滝達の元へと疾走する二つの足音が聞こえて来た。
- 728 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 22:31:52.20 ID:pWq8uZMJM.net
- 連投規制と文字数制限でブログと前後してごめんなさい。
- 729 :ニャンコ坂46:2018/09/12(水) 22:36:04.98 ID:pWq8uZMJM.net
- あと、庭さんは気がついたかもしれませんが、サイコパスなストーカーが現れたので、このスレもここで終わるかもしれません。
役一年間、いろいろお世話になりました。
心からありがとうです(^_^)
- 730 :名無しって、書けない?:2018/09/12(水) 23:41:39.06 ID:tRcZ0MTHa.net
- 俺の方こそありがとうございますm(__)m
ニャンコ先生の影響でブログに保管しようと思いつき
幾つか未完になってる妄想を見つけることが出来ました
- 731 :名無しって、書けない?:2018/09/13(木) 05:12:02.90 ID:WFK705Q7K.net
- 了解です
自分も先生のおかげで絵の楽しさを再発見できました
ありがとうございました
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