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∴ξ∵ξ∴steam...part2302∵ξ∴ξ∵【本スレ】

1 :Anonymous :2018/11/14(水) 19:03:47.09 .net
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∴ξ∵ξ∴steam...part2301∵ξ∴ξ∵【本スレ】
https://krsw.5ch.net/test/read.cgi/steam/1542090579/
VIPQ2_EXTDAT: none:default:1000:512:----: EXT was configured

697 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:48:24.42 .net
>>694
なおとお前もカキかw

698 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:48:38.37 .net
「へっへっへ、ありがてぇありがてぇ。やっぱり人間てぇものは苦しい時は知恵が出るてぇ事を言うがまったくだね。あの死神の驚いた顔ったらフフフ…」
 思い出し笑いをして夜道を歩いている後ろから、低い声が掛かる。
「バカ野郎。何故あんな真似をした」
と言われて振り向くと、そこには死神の姿。

「あ、こりゃあ死神さん、どうもお久しぶりで」
「何がお久しぶりだ。まさか手前ぇ、俺を忘れてやしねえだろうな」
「ええ、もちろん忘れたりしませんよ。一番初めに助けて頂いて、あなたのお陰で随分儲かったもの」
「そうか、ちゃんと覚えていたか。それなのにあんなバカな真似をしやがって。おかげで俺は減俸だ」
「え、なんです減俸って」
「月給を減らされたんだよ。手前ぇ、恩をアダで返すような真似をしやがって……」
 どうやら、あそこにいたのは奴さんに呪文を教えてくれた死神だったらしい。
 ところが死神というのは皆同じ姿かたちをしているから、奴さんもそうとは気付かなかった。

「え、それじゃぁアソコにいた死神はあなただったんで? へへへ、そりゃあ申し訳ない事をしちまった。
 死神てぇのは皆同じ姿かたちだからさ、まさかあなたとは思わなかったんだよ。
 それじゃぁね、アタシが貰った金から幾らかあなたに上げるから、それでひとつ勘弁しとくれよ」
「何を言ってやがる……。まぁ、やっちまった事はもうしょうがない。俺と一緒に来な」
「え、嫌だよぉ。着いてったら大勢の死神が待ち構えてて、吊し上げようってんだろ? 勘弁しとくれよ、ねぇ、金は出すからさ」
「いいから、俺と一緒に来い」
 有無を言わせぬ死神の迫力に、奴さん、仕方なくトボトボついていきます。
 しばらく歩いてやってきたのは、いつか首を括ろうとした大きな木の根元。
 見るとそこにはポッカリと虚のような穴が開いていて、下に向かって階段が続いている。

699 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:49:03.15 .net
牡蠣嫌い

700 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:49:07.82 .net
目酢豚が!!!

701 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:49:10.33 .net
「さぁ、ここを降りろ」
「え、何だいこの穴は。嫌だよぉ、こんな気味の悪いところへ降りるなんて。  ねぇ、金は半分上げるよ。
 だからさ勘弁しとくれよ。あなたとは知らずにやったことなんだよ」
「いいから降りろ」
「降りろったって、中は真っ暗じゃないか。こんなところ歩いたら転んじまうよ」
「大丈夫だ。俺の杖に掴まって降りて来い」
「え、この杖に捕まってって、ちょっとちょと待ってくださいよ。そんなに引っ張ったら危ない、危ないよ」
「ビクビクする事ぁねえ。さっさと降りろ」
 死神の杖に引かれて、真っ暗な階段を下りていくと、やがて明るい場所に出ます。

「ほれ、これを見てみな」
「ありゃ、随分ロウソクがたくさんあるね。何ですこりゃ」
「これは全部、人に寿命だ」
「なるほど、昔から人の寿命はロウソクの火のようだなんて例えはよく聞いたもんですが、随分どっさりあるもんですね。
 長いのや短いのや色んなのが……、あ、ちょいとちょいと、ここにおそろしくロウが溜まって暗くなってるのがありやすね」
「そういうのは患っている。ロウを取って、炎がまっつぐに立てば病は治る」
「へー、なるほどねー……、お、ここに随分長くて威勢良く燃えてんのがありますね」

702 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:49:33.45 .net
カキフライ一番うめぇのにこいつらわかってねぇな

703 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:49:52.56 .net
>>702
けいおん!ねたw

704 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:49:59.94 .net
「それがお前ぇだよ」

「え?」
「お前ぇの寿命だよ」
「だ、だってこれ、今にも消えそうじゃないか」
「消えそうだな。消えた途端に命はない。もうじき死ぬよ」

「お、脅そうたってダメだよ。だってお前さん、初めて会った時に、お前にはまだ寿命があるって、そう言ったじゃないか」
「俺は嘘はつかねぇ」
「だってほら、い、今にも消えそうだよ」

「お前ぇの本来の寿命はこっちにある。この半分より長く威勢良く燃えているのが、お前の寿命だ。
それなのに、お前ぇは金に目が眩んで、寿命を取っ替えたんだ」
 死神が目を細める。
「フフフ、可哀想に。お前ぇもうじき死ぬよ」
「そ、そんな事知らなかったんだよ。なぁ、金は全部お前さんに上げるからさ、寿命を元に戻しとくれよ」
「もうダメだ」
「そんな事言わねえでさ、なぁ頼むよ死神さん、死神様、しーさん」
「何がしーさんだ。いっぺん取り替えちまったものは二度と元には戻せねえ。死にな」
「そんな不人情なこと言わねえでさ、か、金なんかもういらねえからさ、だから頼むよ。もういっぺんだけ!」
 そう言って奴さん、死神に手を合わせます。

705 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:50:05.21 .net
大貫「力丸ぅ〜、おなかがいたいよぉ〜。」
力丸「も、もしかして陣痛か!?」
大貫は妊娠9ヶ月だった。
あれからは力丸も穏やかになり、男気のある良きパパになろうとしていた。
力丸はとても気が早く、ある日突然離乳食である“心太”を大量に買ってきたりと、既に親バカになってしまっている。
大貫「で、出るぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
力丸「しっかりしろ!すぐに救急車呼んでやるからな!」
力丸が携帯を手にとったその時ーーーーー

ブリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ…!

下痢だった。
床に放たれた“激臭”を前にした力丸、いつもならここでインストールを始めるが、“パパ”にとってはそれよりも安堵が大きかった。
力丸「な、なんだ下痢か。今朝の穴子巻きがあたったんだな?ひやっとしたよ。」
大貫「あなたさぁ〜、どんだけ気が早かったらそんな勘違いするわけ?」
大貫「さすがに今の勘違いはないでしょ、まァじでw」
大貫「今ので下痢と陣痛は10:0、さすがにw」
大貫「まァじ今のはやばいよほん…
ズンッ!
大貫「んっ!」
パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
大貫「んっ!んっ!んっ!んっ!んっ!んっ!んっ!んっ!」
グチャ!グチャ!グチャ!グチャ!グチャ!グチャ!グチャ!
力丸「9ヶ月分の!9ヶ月分の!もんじゃに!なれ!!」
大貫「んっ!力丸っ!」

706 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:50:27.99 .net
それを見た死神、呆れたように足元に転がる燃えさしのロウソクを拾い上げると男に渡す。
「しょーのねえ野郎だ。ほれ、ここに灯しかけがある。これとその消えかかっているロウソクを繋いでみろ。上手く繋がれば助かるかもしれねえ」


「ありがとう、ありがとう」と涙ながらに礼を言って、ロウソクを受け取ると、消えかけのロウソクを手に取ろうとしますが、これが短くて中々摘めない。


「早くしないと消えるよ」
「き、消えるったって、こんなに短くなっちゃってるんだもの。摘むったって中々摘めないんだ……」
 ようやく、地べたからロウソクを剥がして手に持つと、燃えさしに火を移そうとするが、手が震えて中々移せない。

「どうした、何を震える。震えると消えるよ」
「そ、そんな事言ったって、身体の野郎が勝手に震えるんだからしょうがねえじゃねえか」
「震えると消えるよ。消えると死ぬよ」
「黙ってておくれよ! お前さんが消える消えるてぇから、尚こっちは震えて上手くいかねえよ」
「ほら、今にも消えそうだ。フフフ、早くしな。死ぬよ」
「う、うるせえ! 黙ってろ!」
「ほら、早くしな。早くしないと消えるよ。フフ、フフフフフ……ほら早く。
もうすぐ消えるよ、ヒヒヒ、消えるよ、消える、消えるよ、ヒヒヒヒ………」
「うるせえ! つけ! つけ! つけったらつけよ、こん畜生!」
「消える、消える。死ぬよ、死ぬよ。ほらもう消えるよ。ヒヒ、ヒヒヒ……」
「あぁ、消えちまう! 消えちまう! あぁぁ……」



 ほら、消えた。

707 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:50:57.50 .net
>>694
うわあ道端に落ちてる石の上で料理とか無理……

708 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:51:39.31 .net
はい規制

709 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:52:06.56 .net
なおとだしw

710 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:52:23.29 .net
1000円で誰が一番美味しいラーメン作れるのか!?
https://www.youtube.com/watch?v=Ou4Pfk39rfM

711 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:52:34.47 .net
 子供というものは、赤ん坊の時分は何とも可愛いもので、ちょいとあやしてやってキャッキャと笑ってる顔を見ておりますと、
 こっちまで幸せな気分になったりするものですね。
 ところが、これがだんだん大きくなって、歩気回るようになり言葉や理屈を覚えるようになる。
 すると、一体どこで覚えてくるんだか、言うことを聞かないんで、こっちが叱っても憎ったらしい屁理屈で返してみたり、
 そうかと思うと、自分の思い通りにならないからと、駄々をこねて泣き喚く。
 たまの休みに家族で何処かに出かけたりしますと、こっちは叱ったり宥めたり、
 勝手に動き回るのを追いかけたりと大忙しで、元気なのは子供ばかりで親の方は疲れ果ててしまう――なんて事も多くなってまいります。
 まぁそれだって、子供の成長にとっては大事なステップなんでしょうし、
 たまに甘えてくれば、自分の子供ですからやっぱり可愛らしいと思うものです。
 それに振り返ってみれば、自分たちだって子供の時分は、やっぱり同じように親を困らせていたんでしょうね。

712 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:52:44.04 .net
まじ長すぎるとフォントサイズ小さくなって読めないので

713 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:52:57.50 .net
あらしゅな

714 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:53:16.58 .net
「おっかぁ、ちょいと羽織出してくれ」
 長屋住まいの八五郎、縦縞の小紋を着ると女房に声をかけます。
「なんだろねぇこの人は、新しく羽織を拵えたもんだから、用もないのに羽織を着ちゃ、表に出たがってさぁ」と呆れる女房に、
「バカ言ってやがら。用もねぇのに表に出たがる奴があるかい。
 今日は天気もいいからよ、その羽織を羽織ってね、ちょいと天神様へお参りに行ってこようと思ってな」と八五郎。

「あら、天神様? そういえば今日は初天神じゃないか。じゃぁさ、金坊も一緒に連れてってやっておくれよ」
 女房が言うと、それまで機嫌の良かった八五郎の顔が曇ります。
「 金坊は勘弁してもらおうじゃねぇか」
「勘弁してもらおうって、自分の子供じゃないか」
「自分の子だから嫌なんだよぉ。あいつは表に出た途端、アレ買ってくれコレ買ってくれってよ。
 あいつと表を歩いた日にゃあ、俺ぁまんじりとも出来ねえ。だから早く羽織出してくれ。
 アイツが帰ってきちまう前に早く出かけるからよ。ほら早く……って、あら、帰ってきちゃったよ」
 ため息まじりの八五郎の前に走ってきたのは、今年六つになる息子。
「お父っあん、ただいまぁ」
 さっさと出かけてしまおうと思っていた矢先に帰ってきた金坊に、針五郎は「鼻が利くねコイツぁ」とひとりごちます。
「え、なぁに?」
「いや、なんでもねぇ。それよりまだ日も高ぇじゃねえか、どっか行って遊んでこい」
「どっか行って遊んで帰ってきたんだよぉ」
「もっとどっか行って遊んでこい」
「だって友達みんなウチに帰っちゃったもん」
「友達がウチに帰ぇったら、お前も帰って遊べ」
「だから、帰ってきたんじゃないかぁ。……あら、お父っあんどうしたの、羽織なんか着ちゃってぇ、どこかへお出かけ?」
 目ざとく羽織姿に気づく金坊に、八五郎なんとか誤魔化そうと、
「おう、今日はこれから怖いおじさんたちの集まる所へ行って、仕事の打ち合わせだ」と渋面を作ります。

715 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:53:22.69 .net
NGしようがないからこのあらしきらい

716 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:53:36.86 .net
カツオとイカで究極の卵かけ御飯!?
https://www.youtube.com/watch?v=pXPmAFldt_c

717 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:53:41.15 .net
またセクハラされてる…

718 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:53:53.76 .net
>>716
画期的なTKGキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

719 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:54:01.18 .net
「あはは、嘘だよぉ。長い付き合いだものお父っあんの顔色見れば分かるよぉ。」と八五郎の嘘をあっさり見抜く金坊。
「あっ、分かった! 天神様に行くんだろ、今日は初天神だもの。ねぇお父っあん、
 アタイも連れてとくれよ初天神。ねーったらー」
そう言って袖口にすがりつく金坊に「勘のいいガキだねどうも……」と八五郎は一つため息を吐き、開き直ります。

「あぁ、そうだよ、これから初天神に行くんだ。でもオメェは連れてかねえよ。
どうせまたアレ買ってくれコレ買ってくれって言うに決まってんだから」
「そんな事言わないでさぁ、アレ買ってくれコレ買ってくれって言わないからさぁ、ねぇいいだろぉ」と、甘えた声でねだる金坊。
「ダメだ。ここで約束したって、一歩表に出りゃ必ず言うに決まってんだから」
「ぜったい言わない、男と男の約束だ。だからさ、ねぇ、連れてっておくれよぉ」
「聞いた風なこと言ってやがら。ダメだったらダメ!」
「そんな事言わないでねぇぇ、連れてっておくれよぉ、ねぇ、お母っあんからも頼んでおくれよぉ」

720 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:54:34.18 .net
 頑なな八五郎の態度に、お母っあんを味方に付けようとする金坊。
「ちょいとあんた、連れておやりよ」
 そう言ったあと、小声で「やだよ置いてかれちゃ、家ん中でグズられちゃたまんないんだから」と女房。
「ねぇ、連れてっておくれよ」「連れてっておやりよ」「連れてっておくれよ」「連れてってやんなよ」二人がかりの攻撃に、さすがの八五郎も諦めます。
「うるせえなぁ!分かった連れてくよ!」
  ただし、と八五郎。
「いいか金坊、男と男の約束だ。表でアレ買ってくれコレ買ってくれと言ったら、ただじゃおかねえぞ」
「そうだよ金坊、ちゃんとお父っあんの言うこと聞かないと、川ん中へ放っぽりこまれちまうよ」
「ほら聞いたな、じゃぁ行くぞ」

721 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:54:51.41 .net
「いいか、また駄々こねやがったら、帯引っつかんで遠慮なく川ん中放っぽりこんじまうからな」
 渋面の八五郎、横を歩く金坊がワガママを言い出さないように、改めて釘を刺します。
「いいよ、アタイ泳げるもん」
「泳げたってダメだ。川にはカッパがいて、お前ぇなんぞ頭からガブりと食われちまうんだから」
 声を低くして、身振り手振りで脅かそうとする八五郎に、金坊は呆顔。
「こないだ先生が言ってたよ。カッパってのは架空の生き物でホントはいないって。そんなのまだ信じてるなんてお父っあんはあどけないね」
「ほんと可愛くないねお前は。ほら、ちゃんと引っ付いて歩け人が多いからよ。迷子になっちゃいけねえ」

722 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:55:06.88 .net
ッシャオラアアア!するの怖すぎ

723 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:55:08.61 .net
 天神様の境内に着くと金坊、目を見開いて辺りを見回します。
「お父っあん、人がいっぱいだね」
「初天神だから当たり前ぇだ。お参り行く人と帰ぇる人の肩と肩がぶつかって、それでごった返ぇすのよ」

724 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:55:16.17 .net
ぷんちゃんが天国へ旅立ちました。
https://www.youtube.com/watch?v=OXLG3CGYFE0

725 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:55:35.17 .net
「へぇ、ねえお父っあん」
「なんだ」
「人もいっぱい出てるけど、お店もいっぱい出てるね」
「おぉ、そうだな。今日は店がいっぱい出てるな」

「ねぇお父っあん」
「なんだ」
「こんなに店が出てるのにさ、今日のアタイはアレ買ってくれコレ買ってくれって言わないでしょ」
「おぉ、言われてみりゃぁ、今日はアレ買ってくれコレ買ってくれって言わねえな」

726 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:55:58.21 .net
「ねぇお父っあん、アタイ今日はいい子だよね」
「そうだな。そうやってオメェがいい子にしてりゃぁ、お父っあん何時だってオメエを連れて歩いてやるんだけどな」
「ねぇお父っあん、アタイいい子だよね」
「そうだないい子だな」

「だからさ、ご褒美に何か買っとくれよ」

 ほらやっぱりと、八五郎はため息を吐きながら、
「……始まりやがったな。今日はそういう事言わねぇって約束で来たんだろ?」
「うー、そんな事言わないでさ、ほら、あそこに団子が売ってるよ。ねぇ団子買っとくれよぉ、団子ぉ」
「男と男の約束だって言ったなぁ、お前ぇだろ」
「だからさ、男と男の約束でアレ買ってくれコレ買ってくれって言わないんだからさぁ、ご褒美に団子一つ買っとくれよぉ。ねぇ一本だけ」

727 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:56:09.29 .net
>>724
泣いた。

728 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:56:20.04 .net
「うるせぇなぁ! 買わねぇったら買わねえんだよ今日は!」
 しつこく食い下がる金坊に、八五郎とうとう声を荒らげます。すると金坊、途端に目の中に涙を一杯に貯めて、
「うぅーー……、団子ぉぉ! 買っとくれよぉおお! だんごぉぉぉぉぉぉ!  だんごぉぉぉ!」と、大声で泣き出し、周囲の人たちの視線が集まります。

「大声で泣くんじゃねぇよ! みんなこっち見て指差して笑ってるじゃねえか、みっともねぇ。分かったよ買ってやる」
 ひっぱたいてやりたい気持ちをグッと堪え八五郎。
 まぁ団子一本くらいならと諦め、だからコイツ連れてくるのは嫌だと言ったんだ……
なんて、ブツブツ言いながら団子屋の前に金坊を連れて行きます。

729 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:56:42.53 .net
「おぅ、団子屋」
「へい、いらっしゃい」
「何だってテメェ、こんなところに店出しやがったんだ」
 イキナリ文句を言われ驚いた顔の団子屋ですが、そこは商売人。
「いつも出ておりますよ」と、さらりと返します。

「いつも出てるんなら、今日くらい休みゃいいじゃねぇか」
「そんな事を言われましても、手前も商売ですから」
「まぁいいや、団子一本くれ。あん? アンコに決まってるじゃねえか、蜜はベタベタ汚れちまって家に帰ぇったらカカァに文句言われちまうだろ」
と金坊を指差す八五郎。

「コイツだけが言われんじゃないんだよ? 俺とコイツ並べて文句言われるんだよ。だからアンコだアンコ」
「蜜が良いぃぃいい!」
「……蜜にしてくれ。子供が食べるんだからね、蜜たっぷりオマケしてくれよ」と、言われた通り蜜たっぷりの団子を受け取ります。
 すると手に持った団子からタラリタラリと蜜が垂れてくる。

730 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:57:10.75 .net
「ほら見ろ、あっちからこっちから垂れちゃって大変だ」
なんて言いながら、八五郎は蜜をひと舐め。普段は甘いものなんか滅多に食べない八五郎ですが、
久しぶりの蜜は存外美味く、チューチューペロペロと啜っているうちに蜜が全部なくなってしまいます。

「ほらよ」
「うあぁぁああん! 蜜全部舐めちゃったあぁぁぁ!」
「あぁうるせえな。泣くんじゃねえよちょっと待ってろ。なぁ団子屋」
「何でしょう?」
「その壷には何が入ぇってるんだ? え、蜜? ホントかぁ? ちょっと蓋開けてみろ」
 またイチャモンつけられちゃたまらないと、団子屋が蜜壷の蓋を取ると八五郎、蜜壷の中に舐めた団子をちゃぽん。

「あ、ちょいとお客さん困りますよ!」
 団子屋の文句を右から左に流して、団子を金坊に渡すと金坊、嬉しそうにチューチューペロペロ団子の蜜を全部を啜ってしまいます。
「……ねぇおじちゃん、その壷には何が入ってるの?」
「なんだいこの親子は! ほらもう向こう行って!」
 怒った団子屋は、二人を追い払います。

731 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:57:22.31 .net
文ちゃん?

732 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:57:29.52 .net
「さぁ、早ぇとこ天神様にお参りに行かねぇと怒られっちまう」
「天神様は神様だもの、怒ったりしないよ。あ、お父っあん、凧が売ってるよ。ねぇ買っとくれよ」
「団子買ってやったばかりじゃねえか。ダメだよ!」
「うぁぁあああん! たこぉぉぉぉ! たこぉぉぉぉ!」
「あぁもう分かった、分かったよ、こんちくしょう」
 ブツブツ言いながら金坊を凧屋の前に引っ張っていきます。

「どれにするんだ」
「あの一番大きいのがいい」
「ばか、あれは売りもんじゃなくて、凧屋の看板替わりなの。なぁ凧屋そうだろう?」
 八五郎が目で合図しながら凧屋にそう尋ねると、
「いえ、売りますよ」
「売らねえって言えよ!」
「そんな事言われても手前も商売ですから、飾ってるものは売りますよ」
 顔を赤くする八五郎を無視して、凧屋は金坊に目を向けます。
「お父っあんが凧を買ってくれない? そんなことない買ってくれるよ、優しいお父っあんじゃないか」
と、これ見よがしにそう言うと声を潜めて、
「どうしてもダメだって言われたらね、そこの水たまりに引っくり返ぇって手足バタバタ…」
「余計なこと教えんじゃねぇ! わかった買うよ!」
 八五郎、結局、凧も買わされてしまいます。

733 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:57:58.65 .net
「ほら、今度こそ天神様にお参りするぞ。何? 凧揚げしたい?
 何言ってんだ、こんな人ごみで凧揚げるバカがあるか。
 え、そこの空き地でやってる? あ、ホントだ凧揚げしてやがら……。しょうがねえなぁ、今日はお前ぇに付き合ってやらぁ」
 ブツブツ言いながら空き地へ行くと、金坊に凧を持たせます。

「よし、じゃぁこの凧を持って後ろに下がれ、もっともっと後ろ…よし止まれ。あ、そこは枝が出てるから、もっとそっちによって、違うそっちだよそっち!」
「お父っあん、こっち? それともこっち?」
「そっちだそっち! そうそう、そこでいい。お、風が吹いて来やがった。いいか、一の、二の、三で離すんだぞ。ひのふのみ! それ離せ!」
 一気に凧の紐を巻くと、凧が空に揚がっていく。
「そーれ、風に乗ってどんどん揚がっていくぞ」
 糸を巻いたり緩めたりしながら、凧を操るうちに子供の時分を思い出して、八五郎だんだん楽しくなってきます。

734 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:58:17.97 .net
「わぁ、お父っあん上手いねー」
「へへ、お父っあんガキの時分は凧揚げで負けた事はなかったんだ。そーれ」
「ねぇ、お父っあん、アタイにも持たせておくれよ」
「おう、ちょっと待て。ちゃんと揚がったら金坊にも持たせてやるからな、おっと、そーれ」
「ねぇ、お父っあん、アタイにも持たせてってばぁ!」
「うるせぇな! こういうものは子供が持つものじゃねえんだ、あっち行ってろ!」
 ぶら下がって邪魔をする金坊に、八五郎イライラしてつい、声を荒らげてしまいます。すると金坊、呆れ顔で

「こんな事なら、お父っあんなんか連れて来なきゃ良かった」

おわり。

735 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:58:20.46 .net
 悔しくて目が覚めた・・・そんな夜・・・横になったまま体を反らして、枕元の時計を確認すると、針は三時半を指していた。
再び眠りに入るには妙に頭が冴えてしまっているし、かといって、起き上がってステーキ弁当を食べる気力も湧かない。
そうして半端な状態でいるうち、さきほど目覚めたときに感じた悔しさが、じわじわと胸に込み上げてきた。

 私は、ビルに住み、毎日が寿司と焼き肉、そしてパチスロで満たされた何不自由のない暮らしを送っている。
これまで生活において困ったことなどは一度もなく、そして、これからもないのであろう。
だが、この満たされた人生には何かが欠けていて、その何かが、私の胸中に悔しさとなって現れるのである。

 思えば、少年時代の私には“才”があった。
当時の私はその才を、無限に湧き続けるものと疑いもなく認識していた。
この根拠の無い不遜さが、私から努力や忍耐といった物を根こそぎ奪ってしまったのだ。
もし才がなければ、それを補うべく懸命に励むのだろう。そういった者が見せる鬼気迫るかのような必死さを、私は未だ持てずにいる。
才のないものが生み出した努力と忍耐が、才を作り出し、その才をも努力と忍耐を持って磨いていくのに対し、私は才を生まれ持ったが故に、それを磨く術を知らず、とうとう才は消え、不遜だけが残ってしまった。

 それから私は、更にたちの悪いことに、自らの才が最早過去の遺物であったことを認めず、そのことを隠す方法を見つけてしまったのだ。
それは、何もしないことである。自分はやればできる人間ではあるが、何か気分が乗らないとか楽しくないといった理由の為に、本気で取り組んでいない。こういった姿勢でいることで、私は自らの才を保とうとしているのだ。
怖かったのだ。これまで才のある人間を演じ続けてきた自分が、今更なりふり構わずなにかに打ち込み、それで結果が得られなかったらと思うと、恐ろしかったのだ。
それよりも私は、私の過去を知る人物たちから、あいつはやればできる人間だ、とか、もしあいつが本気になったらその分野は終わる、などと言われているほうが心地よかった。
この悪癖は、とうとうプロゲーマーになってからも直ることがなかった。


 また、私は人の話を聞くことができない。これも先程の話と同様に、才と不遜のせいである。
才と不遜に満ちあふれた人間が、対等な人間関係を築けるわけがなく、才が消えた後も、私はその不遜を持って他人に接してきた。
故に私は、常に誰かの最終人物ではあったのかもしれないが、同時に、私の最終人物となってくれる人間は一人もいないのである。
人に社会経験の不足を指摘できる人間でもなければ、聞き分けの良い年下の人間を周りに集めたところで、親友リーチが限界なのだ。
ここまで超スーパー認識しているにも関わらず、私はいざ誰かと接しようとすると、私の中の帝聖が現れ、例の不遜を振りまいてしまう。


 ・・・・・・夜中三時半にそんなことを思案しているうち、私は無性に寂しくなって、肛門に自らの手首を差し込んだ。
思わず「んっ」と吐息の入り交じった声を挙げてしまうが、これは嘘だ。自分を騙す演技だ。本当は喘いでるんじゃない。
私は孤独のあまり、こうして毎日のように肛門をトロかしているが、それと同時に、そのことを心底から馬鹿馬鹿しく思っている。
だが、それでもやめることはできない・・・・・・私は欲望に逆らえないのだ。焼き肉を食らい、遊戯に勤しみ、肛門を慰める。これだけが私の人生なのだ。

 いっそ、例の物語のように侍が現れて、私をココタへと堕としてくれれば、どんなによいことか。だが、それをいくら願ったところで、所詮は幻想だ。
不遜な私に唯一心の言葉をかけてくれた侍を、私は拒絶した。もう口も聞いていないのだ。思えば、あれが私にとっての最後の人だったのかもしれない。

 そう思うと、私の心は、悔しさと寂しさを通り越して、遂に真っ暗闇となった。
それは、夜中三時半の浅草を覆う闇のように、終わりが見えず、どこまでも続いていくようだった・・・・・・。

736 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:59:14.41 .net
「こんちわー、ご隠居いますかーい」
「はいはい、おや、誰かと思ったら熊さんじゃないか。まぁお上がりお上がり」
「どうも、ご隠居。今日はね、ちょいとお願いがあって来やして」
「ほう、 お前さんがアタシに頼みなんて珍しいね。なんだい?」

 ご隠居が聞きますと、熊さん珍しく神妙な顔で言います。
「他じゃねぇんですがね、実はウチの長屋にオメデタがありやして」
「おや! オメデタ。ほう、どういうオメデタ?」
「お子さんがお生まれになったんですよ」
「おや、そうかい。どちらのお宅だい」
「へぇ、アッシんところなんです」

 これには、ご隠居も呆れ顔。

737 :Anonymous:2018/11/15(木) 21:59:55.53 .net
「……何だよ自分のところかい。自分のところに子供が生まれて『お子さんがお生まれになって』なんて言い方があるかい。
 しかしまぁ、オメデタイこったね。そうかい、そういやこの間合ったが、
 お前んトコのおカミさん、溢れそうなお腹してたっけ。そろそろかなぁと思っていたが生まれたんだね。良かったじゃないか、おめでとう」
「へぇ、ありがとーございやす。実は今日が『初七日』でね」
「え、……あぁ、そう、こりゃぁ失礼した。そんな事とは知らずに『おめでとう』と言っちまった。
 じゃぁ、お生まれになってすぐに、お亡くなりになっちまったのかい?」

 神妙な顔でご隠居が言うと、突然熊さんが怒り出します。
「冗談言っちゃいけねえや! ピンピンしてますよ!」
「え? だって今、初七日って言ったろ?」
「生まれて今日が七日目」
「……そりゃ『お七夜』てぇんだよ。初七日ってヤツがあるかい、縁起でもない」

 そんなご隠居の小言も熊さんは、
「あーそれそれ、お七夜だ。確かシチがつくと思ってたんだ。
 それでカカァと話をしてたんです、名前を付けなきゃいけないってんでね」
と、どこ吹く風。

738 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:00:31.97 .net
「そうだな。お七夜の日には名前を付けるもんだ」
「そんでカカァが、お前さん付けとくれってんですが、アッシは学がねぇし、さてどうしようかと思ってましたら、
 カカァがね『じゃぁ横丁のご隠居さん、あの人は物知りでお調子者だから、
 聞けば何でも教えてくれる、アンタ、ウマイこと煽てて頼んできて』と、こう言うんだ。
 だからね、ウチのガキの名前付けちゃくれやせんか、頼みますよご隠居」

 ご隠居、半目になって熊さんを見ながら、
「……へぇー。さぁ熊さん、ここでアタシの質問だ。お前さんは今、『誰と』話をしてるでしょう」と言うと、熊さんしばし考えて、ハッとします。
「あ、ご隠居だ! カカァも言ってました。当人の前で言っちゃいけねぇって」と照れ笑い。
「でもいいや、あなたは心が広いから」
「ごあいさつだねお前さんは。はっはっは、まぁ腹も立たないがね。
 でも何かい、名前を付けるってことぁ、アタシが赤ちゃんの名付け親になるって事だよ。構わないのかい?」

 もちろんと頷く熊さんに、
「そうかい、じゃぁ喜んで付けさせて貰いましょ。生まれたお子さんは男子(なんし)か女子(にょし)かい? 」と尋ねる。

739 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:01:02.25 .net
「……え?」
「いや、生まれたお子さんは、男子か女子か」
「………うん、さぁ、そこだ…、ネェ。『なんし』か『にょし』か。
 そこんところに付いちゃ、アッシもカカァとよく話をしましてね。まぁ、
なんしだのにょしかなんて、そんな人間にはなって貰いたくねぇと思……」
「お前さん意味が分かってないだろう。男の子か女の子か聞いてるんだよ」
「あぁー! だったらオスなんです」
「オスってヤツがあるかい。男の子か、うん。
 お前さんも人の親になったんだ。
 こういう風に育ってもらいたい、こういう風に成って欲しいなんて願いもあるだろう。どういう名前がいいかな」

 すると熊さん、ご隠居に顔を近づけると、
「長生きするような、めでてぇ名前なら何でもいいんだ。
 いやね、生まれる前ぇは、こうなって欲しいああなって欲しいなんて思いもしましたが、顔見ちまうとどうでもよくなっちまって。
 へへ、親ってのは妙なモンだね。とにかくまぁ、長生きしてくれりゃぁいいと思ってね。何かそういう名前をお願いしやすよ」
 と言います。それを聞いたご隠居は少し感心したように、
「ほう、長生きするような名前な。それじゃぁどうだろうな。
 昔からよく『鶴は千年、亀は萬年の齢を保つ』なんて事を言う。鶴太郎とか亀吉なんてのはどうだい」と言ってみる。

740 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:01:37.29 .net
【本日第7話放送です】
この後「けれどゾンビメンタル SAGA」放送です!
前回からシリアスモードに突入しております!
どうなるフランシュシュ!?

23:30〜 AbemaTV/AT-X
24:00〜 TOKYOMX/サンテレビ
24:30〜 BS11

お楽しみに!
https://zombielandsaga.com/story/detail.php?id=1000472
#ゾンビランドサガ

741 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:01:51.21 .net
ゾンビランドサガ #6・見逃し放送 11月15日(木) 23:00 〜 23:30
【地上波先行】ゾンビランドサガ #7 11月15日(木) 23:30 〜 11月16日(金) 00:00
https://abema.tv/now-on-air/abema-anime

742 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:01:52.08 .net
「お、なるほどねー。うん、結構には違いありませんけどね、
 『千年』なんてぇと、千年『まで』、万年なら、万年で死ぬって言われてる心持ちがするんでね、他のはありませんかね」
「万年生きりゃ十分だと思うがね……、まぁいいや、お前さんの気持ちも分からないわけじゃぁない。
 じゃぁどうだろう、これはアタシも聞いた話でお経を見して貰ったことがあるわけじゃぁないんだけどね、
 お寺さんのお経に出てくる言葉で、寿限り無しと書いて『寿限無(じゅげむ)』というのがある。どうだい?」
「寿限り無し! そりゃめでてぇね。めでたくて限りが無ぇんだ、毎日ずっと寿なんて結構ですね。他にも何かありますかね?」と熊さん目を輝かせる。

「うん『五劫(ごこう)のすり切り』ってのもあるな」
「え、めでてぇのかいそれ、ゴボウのすりこ木?」
「ゴボウじゃないよ。一劫、二劫と数えて五劫ってんだがね、
 三千年に一度、天人が天(あま)下ってきて下界の岩をその衣の裾でもってさぁっと撫でる。
 これを丹念に丹念に岩の方が擦り切れるまで繰り返す。それを『一劫』ってんだ。それが『五劫』ってんだから何億年だか何兆年だか果てしがない。
どうだい、めでたかろう?」
「そりゃいいね。へぇー、そんな話があるとは知らなかった。他にも何かありやすか?」
 感心しきりの熊さんに、ご隠居も悪い気がしません。

743 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:02:08.69 .net
「『海砂利水魚 水行末 雲来末 風来末』ってぇのがあるな。
 『海砂利水魚』これは海の砂利、水の魚だ。獲っても獲っても獲り尽くせないという意味が有る。
 『水行末 雲来末 風来末』これは、水の行方、雲の行く末、風の来る末だ。
 これも、巡り巡って果てしがないというので、おめでたい意味合いがある」
「めでてぇのそれ?」
「だってお前、巡り巡って果てしないんだよ」
「あぁーなるほど。確かに」と納得する熊さん。


「こういうのもあるな。人間に生まれてきて何が欠かせないって『衣食住』だろ。それが『食う寝るところに住むところ』
それにね、『やぶらこうじぶらこうじ』なんてのもあるな」
 すると、それまで笑顔の熊さんが急に怒り出します。

744 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:02:36.56 .net
「ケッ、いらねえ。今アッシは真面目に名前付けてもらおうって来てるんだよ。ご隠居そんなアッシに皮肉言うこたぁねえやな」
「皮肉もイヤミもいってやしない…」
「言ったよ! 今『破れ障子ボロ障子』っつったよ」
「そうじゃない。『やぶらこうじぶらこうじ』ってんだ。
『ぶらこうじ』は中国の樹の名前でな、この樹は春に若葉を生じ、夏に花を咲かせ、秋になると実を結び、
 冬になるとその実に赤い色を添えて霜を凌ぐという。一年を通じて丈夫な樹だ。
 お前さんにしてみれば、樹なんてみんなそんなモンだと思うかもしれないが、
 アタシは当たり前に丈夫でいられるってのが、人として一番ありがたいんじゃないかとそう思うんだが、どうだい」
と、説明するご隠居さんに、
「はあ、なるほどねー。そう言われてみりゃぁ確かにそうかもしれねえねぇ。じゃぁ、それも頂きやしょう」熊さんの機嫌も治ります。

745 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:03:04.35 .net
「こういうのも思い出したな。アタシが子供の頃聞いた話だが、昔、外国にね『パイポ』って国があったんだそうだ」
「ウッソでぇ、 そんな名前の国ねぇよぉ」
「いや、本当にあったんだそうだよ。そのパイポという国に『シューリンガン』という王様と『グーリンダイ』というお妃様がいたそうだ。
 その二人には『ポンポコピー様とポンポコナ様』という二人のお子さんがいらして、この四人が大層なご長命だった――という話を、今思い出した。
 そのお名前にあやかってみるのも、面白いんじゃないかい」
 しかし、これには熊さんも渋い顔。

746 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:03:24.73 .net
「……ご隠居さんねぇ、人の子供だと思うからそう言うんだよ。自分の子供にそんな名前付けるかい? ポンポコピーとポンポコナだよ?
 学校でいじめられんじゃねぇかなぁ。グーリンダイも、ねぇ。
まぁ、強いて付けるならシューリンガンかなぁ」
「いや、同じだと思うがねぇ。
 まぁまぁ、そりゃぁ今思い出したついでの話だ。
 例えば、長く久しい命と書いて『長久命』長く助けると書いて『長助』なんてのも、アタシはいい名前じゃないかと思うがね。
 まだ調べれりゃあいくらも出てくるだろうが、どうするね、調べるかい?」
と言うご隠居に、熊さんは手を振って、
「いや結構、なんてったってお七夜は今日ですからね。今日中に付けてやりてぇ。
 ただ、覚えきれねぇんでね、ご隠居さん紙に書いちゃ貰えませんか」
と、言います。

747 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:03:51.45 .net
 ご隠居がそれまでの名前を紙に書いて渡しますと、


「へぇ、へぇ、どうもありがとーございやす。
 どれどれ、『ジュゲム、ゴコウのスリキリ、カイジャリスイギョ、スイギョオマツ、ウンライマツ、フウライマツ、
 食う寝るところ住むところ、ヤブラコオジブラコオジ、パイポ、シューリンガン、グーリンダイ、ポンポコピー、ポンポコナァァ、
 チョウゥキュウゥメイィィ、チョォウゥゥスケェェェ…………チーン。
って、お経だねこれじゃ。とても決めきれねぇや。
ご隠居、これ頂いていきやす。家に帰ぇって、カカァと相談して決めやすから」
「そうかい。それじゃぁ決まったら教えとくれよ」
と、ご隠居さんが言い終わるのも聞かないで、熊さん走って行ってしまいました。

748 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:04:45.90 .net
名前を書いた紙を貰って家に帰った熊さん。おカミさんと話をするけれど、どれもめでたい名前ですから、とても決め切れるものじゃありません。
そのうちに考えるのも嫌になり、
「えーいメンドくせー、全部付けちまえ」
てんで、候補に上がった名前をみんな付けちまう。

 ありがたい名前のご利益なのか、この子は病気一つしないでスクスクと育ちます。
 やがて学校に通うようになると、朝、友達が迎えに来る。
「じゅーげむじゅげむ、ごこうのすーりきり、かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつ、うんらいまつ、ふうらいまつ、くうねるところにすむところ、
 やーぶらこうじのぶらこうじ、パッイポパイポ、パイポの、シューリンガン、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの、
 ちょうきゅうめいのちょーーすけちゃん、学校行きましょ」

749 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:05:16.52 .net
するとおカミさんが出てきて、
「あらお早うよっちゃん、迎えに来てくれたのかい? それがウチの、
 寿限無寿限無五劫のすり切り海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのやぶこうじ
 パイポパイポパイポのシューリンガングーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助は、まだ寝てんのよ。
 今起こすからちょっと待ってて頂戴ね。
 ほら、いつまで寝てるの。学校が始まっちゃうじゃないのさ。いつまで寝てるんだいこの子はまったくもう! 寿限無寿限無五劫のすり…」
「おばちゃん、学校始まっちゃうから先に行くねー」
なんて事も日常茶飯事。

750 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:06:08.38 .net
そのうちに男の子らしく、ワンパクに育ちましたから、たまにはケンカもします。
 勢い余って、相手の男の子の頭をポコッと殴っちゃって、その子がコブを拵えて家に言いつけに来る。
「うえーーーーん! おばちゃんとこの、じゅげむじぇげむごこうのすりきりかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつ
くうねるところにすむところやぶらこうじのぶらこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーの
ちょうきゅうめいのちょうすけちゃんが、
アタシの頭ぶって、こんな大きいコブを拵えたよー!」

751 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:06:20.35 .net
マジカルユミナ更新深夜でかなしい…

752 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:06:31.83 .net
オイオイオイ、オタセまであと一週間じゃねーか

753 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:06:51.94 .net
「え、なんだって金ちゃん、ウチの寿限無寿限無五劫のすり切り海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところ
 やぶらこうじのやぶこうじパイポパイポパイポのシューリンガングーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助が、
 金ちゃんの頭にコブを作ったって!?
そうかいゴメンよ。勘弁してねぇ」と謝ると、おカミさん熊さんに向かって、
「ちょっとお前さん聞いたかい? ウチの寿限無寿限無五劫のすり切り海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところ
やぶらこうじのやぶこうじパイポパイポパイポのシューリンガングーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助が、
金ちゃんの頭にコブを作ったって」
「何! ウチの寿限無寿限無五劫のすり切り海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのやぶこうじパイポパイポの」
「パイポは三回」
「パイポパイポパイポのシューリンガングーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助が金坊の頭にコブを拵えた!?
どれ金ちゃん、おじさんに頭ぁ見せてくれ…………って何だい金ちゃん、コブなんかどこにも無ぇじゃねえか」
「あんまり名前が長いから、コブが引っ込んじゃった」

おわり

754 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:08:05.23 .net
「囲碁将棋に凝ると親の死に目に会えない」なんて事を申します。
 それほど囲碁や将棋というのは、覚えれば覚えるほど面白くなるんですね。
 私は向いていないのか、結局どちらも覚えず終いでしたが、
 好きな人に聞くと碁会所に行って、朝から晩まで飽きもしないで囲碁を打つんだそうですね。

755 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:08:25.00 .net
 じゃぁ、碁会所に来る人がみんな上手な人かというとそうでもない。
 中にはよく分かりもしないのに、割入ってくる人もいましてね。
 人が打ってるのを後ろから覗き込んで、
「この白の石はどちらのですか?」
「白は私の石ですよ」
「え、あなたの? 嘘ですよ。この碁会所の石でしょうよ」
なんて邪魔をする。

756 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:08:33.93 .net
すき家のネギ牛丼大盛りうますぎwwwwwwwwwww

757 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:08:47.53 .net
「石は碁会所のだけれど、今やってるこの時は私の石ですよ!」
「へぇ、そうですか。じゃぁ、白があなた? じゃぁ、あなたもう負けてますよ」
「良くも分からないで何言ってんです。今は私が優勢なんですよ」
「いやだってあなた、ここに黒の石が四つ並んじゃってるじゃないですか。
 これじゃどちらを止めても負けでしょう……、あら? こっちは随分沢山並んでますね……。ははーん、五並べじゃなくて本碁ですな」
なんて、そんな頓珍漢なやり取りもあるようで。

758 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:08:55.70 .net
誰か喧嘩しようぜ

759 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:09:04.57 .net
「お、この一手ちょいと待ってくれないかな」
 美濃屋と大旦那、いつもの様に大旦那の店の奥で、碁を打っております。
 どちらも碁の腕はからっきし。下手の横好きというやつで、今も大旦那が『待った』を申し出る。

「今日は『待ったなし』でやろうと、あなたから言い出したんですよ」
「うん確かに言った。だけどさ、この一手だけ待っとくれよ。後は言わないからさ。その代わり、あなたの番には私も一手待つ、それでいいだろ?」
「いけませんよ、こっちは折角いい形なんだから」
「ダメ? ……そう、いや、いいの。どうでも待ってくれってんじゃない。待ってもらえたらてぇ話なんだ」
 煙管に葉っぱを詰めてひと口吸い込むと、鼻から煙を出しながらじっと碁盤を眺めます。

760 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:09:20.67 .net
「あぁ、うっかりしちゃったなぁ。いいトコ打たれちゃった。しかし、この石が死んじゃうのはもったいないなぁ。何かいい手はなかったかなぁ……」
 なんて、ブツブツ言いながら煙管をふかしながら、上目遣いに美濃屋を見る。
「なぁ、いいだろ? この一手だけ待ちなよ、後は言わないから。」
 美濃屋も、自分にいい形だから、首を縦に振らない。

761 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:09:33.41 .net
>>758
カッ!(サミングした音)

762 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:09:36.75 .net
「 ダメ?……あぁ、そう。はいはい分かりました。そっちがどうしても待たないと言うなら、私だって言いたかない事も言わなきゃならない」
「言いなさいよ何でも。遠慮しないで」
「それじゃ言うけどね、一昨年の暮れの二十九日、あんた、私のところになんて言ってきた?
 急にどうしても二百円の金が要る。銀行で下ろそうにも倅が商用で大阪に印鑑を持って行ってしまって下ろすことも出来ない。
 誠に申し訳ないが、一つ御用立て願いたい。その代わり、倅が戻る七草には間違いなくお返しますと、あなた、そう言ったね」

763 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:09:45.04 .net
おちっこもれそ

764 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:10:06.48 .net
 イキナリ昔の話を持ち出されてカチンとくる美濃屋、
「あれはちゃんと返したでしょうよ」と言い返す。
「そりゃそうだ、返してくれなきゃ困るよ。けどその先があったろ。
 年が変わって元日の、午前中は私があなたのところに年始に行く、午後はあなたが私のウチに来る、毎年の吉例だ。
 ところが私が行ったら、あなたがいなかった。おばあさんがすぐ帰ってきますからお待ちくださいと言うから待っていたが、
 いつまで経っても帰ってくる様子もない。
 じゃぁ、帰ってきたらウチに来るように言ってくださいと言って、帰って待ったが、あなた元日に来ない。二日に来るのかと待ったが来ない。
三日も来ない、四日も来ない。五日六日でとうとう七草だ。
 今日は来るだろうと待っていたら、あなた、夜中になってウチの敷居をぼんやり跨いだ。

765 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:10:26.07 .net
 どうしたんだい。体でも壊したかと心配したじゃないかと言ったら、あなたなんて言った?
 実はお宅の敷居が高くて上がりにくい。
 というのも、お借り申したお金、七草までにお返しする約束でしたが、倅が商売の都合でどうしても十五日でなければ帰ってこられない。
 誠に申し訳ないが、十五日までお待ちを願いたいと、こう言ったね。
 そん時、私はなんて言った?
 何を言ってるんだ、あなたと私は子供の時分からの友達。お互いの気心も分かっているんだし、
 あれはどうせ私の小袋銭。なに、心配することはありませんよ。十五日だろうが三十日だろうが待つから気にするなと、私はそう言ったろ?
 それを思えば、この一手くらい待てないって事ぁないでしょうよ!」

766 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:10:26.17 .net
いくら食ってもコレステロール阻害薬飲んでるから病気にはならない、いい時代ですなw

767 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:10:41.73 .net
「変な話になりましたね。でもあなたね、お金はお金、碁は碁じゃないか」
「碁は碁てぇ訳に行くものか、自分だけ勝てばいいってものじゃないんだよ。
 こういうものは勝ったり負けたりするから面白いんじゃないか。だからね、待ちなさい」
「いや、その話を持ち出す前なら待てましたが、こうなっては決して待てません」
「あなたも随分強…」
「ええ強情ですよ。子供の時分から強情で通ってますから」

768 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:10:59.99 .net
そう美濃屋に突っぱねられて、大旦那も後に引けなくなる。
「あぁ、そう。あぁ分かった、分かりましたよ。ここは私のウチでこの碁盤は私のだ。
 ここで囲碁なんぞするからケンカになるんだから、やめましょう」と、碁盤の上の石をグチャグチャにかき混ぜてしまった。
「あぁっ! 何も壊しちまうことはないでしょう。あなたも随分ワガマ…」
「ええ、ワガママですよ。子供の時分からワガママで通ってるんだ」
と返します。

769 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:11:17.81 .net
「そうですか、そういう方とお付き合いは出来ない。じゃぁ、私は帰ろう」
「帰る? 帰れとも言わないのに帰るのかい。あぁ、そうかい。
 帰れ帰れ、ヘボ」
「ヘボ!? ヘボはあなたじゃないか! 三度に一度は負けてやらなきゃ、
 張り合いもつくまいと思うから、こっちはわざと負けてんだ。それも知らないで勝ったつもりになって……。なんだこのザル!」
「ザルぅ!?」
「あぁ、あんたのは隙間だらけのザル碁じゃないか!」
「何言ってやがんだ大ヘボ!」
「うるさい大ザル!」
「金輪際、あなたとは碁は打たない!」
「あぁ、私も助かる! 忙しい中出てこなくて済む。二度と小僧さんを迎えに寄こすな!」
「誰が迎えになぞやるものか、帰れ!」
「おぉ、帰ぇる!」

770 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:11:21.28 .net
>>761
サミングがわからずググっちまったじゃねーかクソバカが

771 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:11:36.97 .net
 孫の二、三人もあろうかという大店のご隠居二人が、たった一目の事で大喧嘩。
 一日二日は孫を連れて、上野に行こう浅草に行こうなんてしてれば気も紛れますが、
 折り悪く三、四日雨でも降り続こうもんなら、だんだんと退屈をしてしまいます。

「碁敵は憎さも憎し懐かしし」
 なんてのは、実に上手いことを言うもので。

772 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:11:51.87 .net
「まったく、よく降る雨だな。こんなに降る事ぁないだろうに。おばあさん、お茶入れとくれ」と美濃屋。
「あなた、朝からお茶ばかり飲んでるじゃありませんか」
「いいじゃないか、お茶くらい好きなだけ飲んだって。グズグズ言う事ぁないよ。大体その猫を膝から下ろしたらどうだい! 猫ばかり抱いて。
この猫ババア!」
 などと、ご内儀に憎まれ口を叩いて、ため息を吐きます。

773 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:12:11.48 .net
「あー、こんな時に碁でも打ってられりゃなぁ……。 
 あいつとケンカなんぞするんじゃなかった。だけど、あんな古い話を持ち出されたんじゃ、意地でも待てるものか。
 まぁ、待ったって負けやしないけれど、あんな言い草されて……。
 あいつ、何してやがるのかなぁ。向こうだって退屈してるだろうに。
 小僧を迎えに寄こすがいいじゃないかなぁ……。」
 と、ここで小僧さんを迎えに寄こすなと言ったのを思い出し、
「あんなタンカ切るんじゃなかったなぁ」と後悔します。

「何してるだろうあいつ。
 こう雨が降り続くと冷え込むし、あいつは持病持ちだから寝込んじゃいないかな。もし、寝込んだりしてると可哀想だ……。
 見舞いにでも言ってやろうかしら。
 でもなぁ、あんなケンカして、こっちから行くのも悔しいしなぁ」

774 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:12:27.83 .net
 そこで、ふっと妙案が浮かびます。
「そうだ、店の前通ってみようかな。大概あいつは店に座ってんだ。こっちの姿見りゃ黙っちゃいられないだろう。
 『どこ行くんだい?』位のことぁ言うだろう。『うん、ちょいとそこまで』
と答えたら『じゃぁ、帰りに寄んなよ』なんて言うに違いない」
 思い立ったが吉日、よし、行ってみようと、おばあさんに向かって出かけるよと言って立ち上がります。

775 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:12:47.10 .net
「下駄出てるかい? あ、それとお前さんの傘貸しとくれよ」
「ダメですよ」
「 何で?」
「アタシも買い物に出ますから」
「じゃぁ、もう一本コウモリあったろ」
「あれは、倅が店に持って行ってそれっきりですよ」
「なんだい、傘くらい何本か用意しとけばいいじゃないか」
 文句を言いながら外を除いて、
「大した雨じゃないが、傘がないと濡れちまうしなぁ」
と独りぐちる。

776 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:13:03.49 .net
「なぁ、傘貸してくれよ、すぐ帰ってくるから」
「私もすぐに出るんですよ」
「それじゃぁ何かい? お前、私に濡れてけって言うのかい」
「濡れていけとは言ってませんよ、傘を持って行ってはいけないって言ってるんです」
「同じことじゃないか、いいよ、借りないよ」
 そう言って、玄関を見回すと、富士山に行った時の頭傘(かぶりがさ)を見つけます。
「いいのがあった。これをこうして……」
 頭傘を頭に乗っけて、顎紐を結わえると着物の袖を握って体に巻きつけるようにする。

「おばあさん、ちょいと出かけてくるよ」
「お止しなさいよ、そんな妙ちくりんな格好をして。どちらへ?」
「なに、ちょいとあいつの店の前まで」
「およしなさい、またケンカになるから」
「大丈夫だよ。あいつの店に行くんじゃない、前を通るだけだ」
 そう言って、ご内儀が止めるのも聞かないで家を出ると、案山子みたいな格好のまま通りへ向かいます。

777 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:13:21.33 .net
「けどなぁ、あいつが店に居りゃいいが、居なかったら無駄足だしな。と言って店ん中を覗き込むのは嫌だしな。
 前を通りながらちょいと見て、すぐ戻しゃバレないかしら。ちょいと見て、こう。ちょいと見て、こう」
 頭傘を頭に乗っけて、顔だけ横を向いたり前を向いたり。怪しい事この上ない美濃屋です。

778 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:13:56.44 .net
「定吉、火がないよ火が。
 お客さんがおいでになって、一服すると言ったって火種がないと困るだろう。早く火を持ってきな!
 それに誰だ、今日掃除したのは。長松お前か? 見ろ汚いったら。
 雑巾は何度も濯いで床を拭かないと、汚れを伸ばすばかりで床が斑になってるじゃないか。不精するんじゃないよ」
 ことらも、長雨ですっかり退屈している大旦那。
丁稚小僧に小言を言っていると、今度は店の中で孫がケンカを始める。
「これ! ケンカをするんじゃない。ほら兄ちゃんが妹のを盗っちゃいけないよ、これ泣くんじゃないよ、うるさいねまったく……。
 おい、お母ちゃん! お母ちゃんはいないのかい? ダメだよ子供を店で遊ばせてちゃ。奥に連れてきな!」
 と言ってるうちに、定吉が火種を持ってくる。

「お前、随分と火を持ってきたな。こんなにはいらないんだよ。
 たばこの火種なんだから、高いところが二つか三つありゃぁいいの。
 灰をかけろ、そんなに掛けるな頭を出せ、頭を出しなさい…お前の頭じゃないよバカ!」

779 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:14:14.98 .net
そんな大旦那を後ろから見て、三人目の孫にお乳をやりながら笑っている、倅の嫁を睨みつける大旦那。
「何だいこの人は、後ろでゲラゲラ笑ってるんじゃないよ。
 早く奥に子供を連れて行きなさい。それに何だいみっともない、おっぱいを放り出して店先に出るんじゃありませんよ」

 ハイハイと子供達を連れて、奥に引っ込む嫁の背中を見上がら、
「大きなおっぱいだよ全く。それに気が利かない。俺の女房ならとっくの昔に離縁をしてるが、倅のだから我慢をしてるんだ」
などと、一人でブツブツ。

780 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:14:31.31 .net
「それにしてもよく降る雨だなぁ。こんなに降らなくったっていいだろうに」
 そんな大旦那の様子に番頭さん、
「お退屈でございましょう。碁会所へお遊びに行かれてはいかがです」
と言う。すると大旦那、
「はっ、ダメさあんなトコ。相手がいないよ」と言う。
「相手が弱すぎてですか?」
「ふん、御冗談を……、強すぎるんだよ。こっちは何十目と負けちまうんだ。
 ああいうのは、一目半目を争うから面白いんだからね。何十目も負けちゃつまらない。
 大体この頃の若い奴は、本なぞ読んで勉強していやがるんだ、勝てるものかい」そう言いながらタバコの煙をぷかーっと吐き出す。

 そこで、番頭が気をきかせて、
「美濃屋さんへ、小僧を迎えにやらせましょうか」
と言うと、大旦那ニヤリと顔を緩ませるが、ハッと気づいて不機嫌になる。
「知ってるだろ、大喧嘩したの。
 そういやケンカの最中にお前さんが顔を出して、これは有難い、仲裁してもらおうと、私が目配せしたらお前さん『ん?』なんて気づきもしかったね」
 とんだ藪蛇。番頭さん話を誤魔化そうと、
「美濃屋さんはお強いんですか」などと聞いてしまう。

781 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:14:47.14 .net
「負けないよ、あんなやつになんぞに。あの石が死んじまうのがもったいないから、待ってもらえたらというやつだ。それをあいつぁ……。
 だけどいいんだよあんな事は。こっちは何とも思っちゃいないんだから。
 だから黙って来ればいいのに、強情なんだあの男は。子供の時分からずっとそうだ。変わらないんだよ」
 と、煙管をふかして、
「こんなに雨が降ってるってのに、何をしてんだか……」
なんて言いながら、表に目をやります。

782 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:15:02.11 .net
 すると、店を挟んで反対側の道を歩く、美濃屋の姿が目に入る。
 途端に大旦那、今までの仏頂面がパッと晴れます。
「来た来た、とうとう出て来ましたよ。私が我慢できないくらいなんだから、あいつに我慢出来るわけがないんだ」
 嬉しそうに番頭さんにそう言うと、奥に向かって、
「おーい! 盤を出しなさいよ、いつもの部屋。それとね、羊羹も切っておきなさい。あいつは甘い物が好きなんだから」と声をかけます。
「へへ、来てくれりゃぁいいんだよ。……あら?」
 そこで大旦那、美濃屋の格好に気づき、
「変な格好してきたよ、頭傘被ってやがる。んん? 何をしてやがるんだ。
 へへ、決まりが悪いもんだから向こうっかわ歩いてやがら。
 いつもの様にスっと入ぇって来りゃいいのに何してんだ、バカだねぇ」

 独り言を言いながら、大旦那が店の中から見ていると、美濃屋が店の向かいに差し掛かる。
「なんだい、首を振りながら歩いてるよ。何をしてやがんだスっと入ぇりゃいいじゃねえか……」
 大旦那が待ち構えている店の前を通り過ぎて、美濃屋、首を振りながら行ってしまいます。

783 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:15:19.58 .net
「……言っちゃったよ向こうに。ウチに来たんじゃないのかな」
「碁会所へ向かってるんじぁありませんか」と番頭さん。
「碁会所? 碁会所なんか行って打てる碁じゃないよ、あいつは。
 私としか打てない碁だ、遊びに行くトコなんぞあるものか」
とムキになって返す大旦那。

 すると、一度は通り過ぎた店の前を美濃屋、今度は向こうから引き返してくる。
「あ、戻ってきた。へへ、今度は『こんちわ』位の事は言うよ、私がここにいるの分かってんだから」
「大旦那さまが居るのに気が付いていないんじゃありませんかね」
「気が付いてない事ぁないよ。あんなに首振りながら歩いてんだから……。
 また向こう歩いていやがる。忙しいフリをしたってダメだよ。お互い隠居で暇なのは分かってんだから……」
 なんてブツブツ言いながら眺めていると、美濃屋またもお店の前を通り過ぎていく。

784 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:15:40.61 .net
「おい、帰っちゃったよ……。嫌な奴だな!
 ここまで来て帰る事ぁないじゃないか、私がここにいるのを分かってるんだから。
 あいつが、そういう男だってんなら私だって付き合いを考えるよ!」と、大旦那が身を乗り出すと、道の向こうに頭傘の男が立っている。

「へへへ、いたよ番頭さん。帰ったんじゃないよ、向こうのポストの脇に立ってやがる。あれじゃ、どっちがポストだか分かりゃしないね。
 どうせ入りづらくて悩んでるんだろうから…、よし! こっちから入りやすくしてやろう」と大旦那、奥に向かって、
「おーい! 盤をこっちに持ってきとくれ」
と言って、小僧が盤と石を持ってくると自分の前に置かせる。
 そして石を手に取ると、盤にパチンといい音をさせて打ち始めます。

「この音を聞けばあいつは店に入ってくるよ」
「入ってきますか?」と番頭さん。
「あぁ、入ってきますよ、まぁ見ていなさい」
 そう言って大旦那、盤の上に石をパチン、パチン。

785 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:15:55.04 .net
「驚いたね、巳年の奴は執念深ぇってのは本当だ。まだ、あの事を根に持っていやがる。
 最初に通ったら睨みつけやがって、二度目に通ったら下唇突き出して見やがってバカにしてやがら。
 売るケンカなら買ってやろうかな。あいつなんぞに負けるもんか」
 美濃屋が独りごちていると、店の中から聴き慣れた、パチンパチンと碁を打つ音。
「いいねぇ、あの音を聞くと胸がスっとするね。盤が良いんだね。石の方も膨らみがあってね。盤石が良いと二目三目腕が上がるてぇが、本当だね」
と、そこで美濃屋はたと気づく。

「あれ? 誰と打っていやがるんだ? 相手がいるのかな、相手がいるとなると穏やかじゃねえな」
 焦った美濃屋、今度は店の真ん前を首をふりふり通りすぎ、中の様子を伺おうとする。そんな様子が大旦那からも見えている。

786 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:16:31.49 .net
「ほら、出て来た出てきた、この盤を見て素通りをする事はないでしょう……あれ、行っちまうのか?
 バカだな、行ったり来たり店の前ウロウロしやがって……やい、ヘボ!」

 大旦那の声に美濃屋が、
「お、今ヘボと言ったな!」と返す。
「ヘボだろ。待ってくれが待てない位だ。ヘボだろうヘボ」
「待ってくれをいう方が余程ヘボだ。なんだこのザル」
「大ヘボ」「大ザル」
 すると大旦那、盤の上の石を片付ける。

「ここに盤が出てるんだ。ヘボだかザルだか一番やるか!」
「よし、受けた!」
と、途端に二人とも盤を挟んで笑顔になる。

787 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:16:51.93 .net
「へっへへ、ヘボでもザルでも構わない、この町内にあなたと私、子供の時分から残ってる友達はもう、二人っきりだ」と大旦那。
「だからさ、仲良くやりましょうよ。……あれ? 盤の上に雫が落ちてくるな」
 雨漏りかなと屋根を見上げるが、雨の持ってる様子がない。
 おかしいなと、盤の上の水を拭いて、始めようとするとまた雫が垂れてくる。
 と、ここで大旦那、やっと雫の正体に気がつきます。

「おい、まだ頭傘取らねえじゃないか」

おわり

788 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:19:28.12 .net
https://store.steampowered.com/app/617670/Zup_S/
早めの発売きたな

789 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:20:29.84 .net
減るゲートまだかよ

790 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:20:56.43 .net
江戸時代の本庄だるま横丁に左官の長平衛という、大変腕のいい職人さんがおりました。

791 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:21:13.35 .net
 しかし、千里走る馬には何かクセがあるもので。
「飲む、買う、打つ」の三道楽。
 中でも一番いけないのが、博打でございます。

792 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:21:41.07 .net
>>790
まだやんのかよてめえ!

793 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:21:54.53 .net
 悪い仲間に誘われて、ちょいと遊びのつもりで手を出したつもりがすっかりクセになってしまい長兵衛、三年この方仕事をしていない。
 それでも勝てばいいけれど、負けが込むと仕事の道具箱を質に入れ、それでも勝てないと箪笥をひっくり返して女房や娘の着物を質に入れる。
 挙句、それでも足りずに自分の来ている着物まで賭ける始末。
 そのうちに、いよいよ二進も三進も行かなくなった暮れの28日の晩。

794 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:21:58.37 .net
ブリーチのがよっぽどオタクアニメだとおもうけど
誰がみてるのかわからないし…

795 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:22:17.90 .net
長平衛が家(ウチ)に帰ると、明かりも付けない部屋の中で、女房が一人しくしくと泣いている。
 どうしたんだと聞いてみると、今年十八になる「お久」という一人娘が昨夜から帰ってこない。
 方々探してみたけれど何処にも見当たらないので、こんな暮らしが嫌になって何処かで身投げでもしてるんじゃないかしらと、
 途方にくれて泣いているという。

796 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:22:43.74 .net
「こんばんは」
 玄関のむこうから声がするので覗いてみると、仕事で世話になっている吉原の大店(おたな)佐野槌の番頭、藤助さんが立っている。
何でしょうと話を聞くと、
「女将さんが長平衛さんに話があるから来て欲しい」と言っているので、すぐに支度をして一緒に来て欲しいと言う。

797 :Anonymous:2018/11/15(木) 22:23:07.92 .net
「いやぁ…伺いてえのは山々なんですが、少し取り込み事があるんですよ」「その取り込み事ってのは、もしかして娘さんの事じゃ御座いませんか?」
 驚いた長平衛が、実はそう通りでと答えると藤助さん
「娘さんでしたら、昨晩から手前どもに参っております」
と言う。これに驚いた長平衛は、
「そうですか…。ええ、それじゃぁ支度して後から伺いますんで、藤助さんは先に行ってておくんなさい。へい、支度したらすぐ伺いますんで」
そう言って藤助を帰したあと、女房の方に振り返ります。

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