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【小説スレ】こっくり少女と怪(け)や奇(き)のたぐい

1 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 20:57:09.63 ID:5O5qLrMrd.net
 狗尾草の揺れる細い堤防の上に、菜緒は立っていた。

2 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 20:58:36.45 ID:5O5qLrMrd.net
目の前に大きな川が見える。向こう岸は木々の茂る山で、それを映した青緑の流れが大きな弧をえがいている。
 視線を下げると、堤防の下、砂利が積もった河原に人だかりが見えた。
 その人たちは、みな質素な身なりをしていて、背を向けて川の方をむいていた。
 その人の群れの先に、白装束を纏った者が立っていた。その姿は祈祷師のようで、その人もまた川の方を向いて立ち、なにか唱えているのか、低く厳かな声が川の流れの音に交えて聞こえてくる。
 その祈祷師らしき者の向こう、穏やかな川の流れのなかに、ひとつの小さな人影があった。

3 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 20:59:28.45 ID:5O5qLrMrd.net
川のなかを進むその人影は、川原に立つ祈祷師と同様、白い衣に身を包んでいた。
 その髪は黒くて長い。水に濡れた白装束がその華奢な輪郭を浮かび上がらせる。
 菜緒は引き込まれるようにその人影──少女とおぼしきその姿を見つめていた。
 少女はゆっくりではあるが、川を奥へ奥へと進み続け、次第にその体が、川のなかに沈んでいく。
 なにかを唱え続ける祈祷師の声が大きくなった。川の水面が少女の肩まで達し、今にも少女は川のなかに沈んでしまいそうだ。
 その時、少女が歩みを止めた。 
 そしてゆっくりとこちらを──川面にいる人々にではなく菜緒のほうを──振り向いた。

 振り向いたその顔は────。

4 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 21:10:40.85 ID:/UwYMm8+F.net
「────菜緒。ねえ、菜緒!」
 聞こえてきた大きな声に、菜緒はっと目を覚ました。
 声がしたほうに顔を向けると、菜緒の机の斜め前に、金村美玖が立っていた。
「あっ美玖・・・どうしたの?」
「どうしたのって・・・もう」
美玖が白い頬を膨らませる。
「また寝てたの?もうお昼だよ?」
「えっ・・・」
 辺りを見ると、クラスメイトたちは各々席を移動したり、机をくっつけたりして、昼食をとり始めていた。
 いつの間にか授業が終わっている。
 教科書やノートを広げているのは、菜緒ひとりだけだった。
「いつから寝てたの?」美玖が手を腰に当てて、あきれたように言った。「またノートとってないでしょ?」
 そう言われて菜緒が自分の机の上のノートを見ると、授業の板書の書き写しは途中で途切れていた。
「あっ、えっと・・・ごめん」
 菜緒が気まずそうな顔をして詫びた。これがはじめてというわけではない。授業中、たびたび眠りに落ちる癖がある菜緒は、そのたびに美玖の世話になっていた。
「もう」
 美玖がやれやれという表情でため息をついたあと、ふっと口許を緩めた。
「まあ、別にいいけど。ご飯食べよ?」

5 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 21:29:48.38 ID:m79jFhoXd.net
菜緒と美玖が談笑しながら昼食を食べ終えたころ、
「菜緒〜美玖〜」
「あ、愛萌」
隣のクラスから宮田愛萌が、菜緒たちの教室に入ってきた。
「どうしたの?」
 小走りで駆け寄ってきた愛萌はニコニコとしていて、なにやら上機嫌のようすだ。 
 愛萌は、辺りをちらりと見回して、自分たちの近くに聞き耳が立っていないことを確かめてから、
「あのさ、またお願いしたいんだけど」
と小さく菜緒たちに聞こえる声で言った。
 他のクラスメイトがいる手前、愛萌は具体的には言わなかったが、菜緒たちはその『お願い』がなんなのか理解していた。
「またお客さん?」菜緒が少し驚いた表情で訊ねる。「最近多くない?」
「なんか口コミで広がってるみたい」愛萌が短く返す。
「え、いつ?」と美玖。
「二人の都合に合わせるけど、空いてる日ある?」
「私はいつでもいいけど・・・菜緒は?」
「私も別に・・・」小さな声で菜緒が返す。
「だったら、明日の放課後でいい?」愛萌が訊くと、二人は「わかった」と頷いた。
「じゃあ、お願いね」嬉しそうに両手を合わせて、愛萌が笑顔で教室を出ていった。

 菜緒たちが通う東高校の近くには、宮田家が代々神職を務めている大宮神社がある。
 その社務所のなかの一室で、巫女の格好をした愛萌は、今回の依頼者の応対をしていた。
 円座と呼ばれる座布団の上に正座をして座る依頼者は女性で、20代後半といったところだ。
 その女性に向かい合って座る愛萌が、この神社の説明や世間話で場を繋いでいると、しばらくして、ガチャ、と音を立てて部屋のドアが開いた。
「あっ、来ましたよ」
 愛萌が依頼者にドアのほうを示す。
 部屋の扉を開けてなかに入ってきたのは、巫女装束に着替えた菜緒と美玖であった。
 二人とも愛萌と同じく、鮮やかな赤の緋袴をはき、純白の白衣に身を包んでいる。
 菜緒と美玖が畳の上を摺り足で静かに進み、女性の手前に並んで立つ。
「この子たちが占いを・・・?」
依頼者の女性が驚いた顔で、年端のいかない少女二人を交互に見た。
「はい。でも好評なんですよ」愛萌が自信のある表情で答える。
女性の依頼──それは占いであった。
「よろしくお願いします」
菜緒と美玖がしずしずと礼をした。

6 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 21:30:39.19 ID:m79jFhoXd.net
「では、こちらへどうぞ」
愛萌が女性に声をかけ、部屋に置かれていた円形の木台のほうを示した。
 女性が立ち上がり、愛萌に従ってそちらのほうに移動する。菜緒と美玖もそのあとに続いた。
「お座りください」そう愛萌が促し、女性が木台に着く。すると菜緒と美玖も女性の向かい──木台を三方向から囲む形で座った。
女性が、どんな風に占いをするのだろうと、愛萌や目の前の少女二人に視線を泳がせる。
すると、愛萌が、
「この神社では、『こっくりさん』で占うんです」
と女性に説明した。
「こっくりさん・・・?」
疑問符を浮かべる女性に微笑みを向けながら、愛萌が木台の脇に置かれた細長い木箱から白い筒──細く丸められた白い紙を取り出して、それを木台の上に広げた。
 その上質な白い和紙には、格子状に縦横の線が引かれ、その枠のなかに古風な字体でひらがなが書かれていた。さらに、その格子の上のほうには、『はい』と『いいえ』が書かれた枠がある。
「こっくりさんって、あの・・・?」
文字の書かれた紙──文字盤を見た女性が、愛萌に訊ねる。
「ええ」愛萌が頷く。そしてこの文字盤と対をなして必要な、もうひとつのアイテムをその文字盤の上に置いた。
 こつん、と小さな音を立てて置かれたそれは、金色に輝く五円玉であった。
「『こっくりさん』で占うんですか・・・?」女性が、当惑の表情を浮かべて言った。占いのためにこの宮田神社に来たのだが、その方法まではまだ説明されていなかった。
 てっきり、祈祷か、それっぽい神社の儀式かで占いが行われると思っていた女性は、まさかの方法に驚く。
「はい」しかし、愛萌は女性に対してしっかりと返事をした。そして、
「では、占いを始めますね。人差し指をこの五円玉に当ててください」
と女性に促す。女性は、まだ戸惑いの残る動きで、五円玉に人差し指を当てた。
 それを見た愛萌が、今度は菜緒と美玖に視線を送る。
すると、二人は無言で頷いて、ともにその人差し指を文字盤の上の五円玉に伸ばした。
 二本の細い指が、五円玉に当てられる。
 そして菜緒と美玖は、二人揃えた声で言った。
「こっくりさん、こっくりさん。いらっしゃいましたら、返事をしてください──」
 わずかな間のあと、三人の指を乗せた五円玉が、ゆっくりと動き出した。

7 ::2018/09/08(土) 21:49:16.58 .net
ほうひらがなけやきの小説か

8 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 21:58:53.21 ID:m79jFhoXd.net
「お疲れ様〜」
占いを終え、依頼者を外まで送ってきた愛萌が部屋に戻ってきた。
部屋で待っていた菜緒と美玖は、すでに巫女装束を脱ぎ、制服に着替えなおしていた。
「今日もありがとね。はい、これ」
そう言って愛萌は、一緒に持ってきたお盆を二人に差し出した。
「わあ、おいしそう」
「かわいい」
そのお盆の上には、ジュースと、フルーツできれいに彩られたスイーツが載っていた。
 お盆を受け取った二人が、文字盤を片付けた木台の上にそれらを広げる。
「いただきまーす」
「ん、おいしい!」
早速それらを頬張り笑顔になる二人を見ながら、愛萌も腰を下ろした。
「ふたりの占い、なんか口コミで広がってるみたい」
愛萌が嬉しそうに話す。「この前のお客さんも、なくした指輪見つかったって」
「へ〜見つかったんだ」と美玖。
この間の占いの依頼内容は、なくしてしまった結婚指輪の場所を占ってほしい──もとい、当ててほしいというものだった。
菜緒と美玖の『こっくりさん』によって、そのありかを示唆されたのだが、後日、依頼者がその場所を探してみると、無事、指輪が見つかったらしい。
「よかったじゃん」美玖がそんなに大したことではないというふうに返す。
 二人がこの宮田神社で『こっくりさん』をしはじめたのは、一年前の高校1年生の頃だった。
 はじめて『こっくりさん』をしたのは、小学校高学年の時だった。そのときから一緒だった愛萌と菜緒、そして美玖の三人は、他の友達から『こっくりさん』という遊びがあると知り、ためしに三人でやってみた。
 はじめは、他の友達同様、『こっくりさん』なんてインチキだと思っていたが、実際にやってみると本当に五円玉がひとりでに動きだし、それだけではなく、試しに『こっくりさん』に訊いてみた質問の答え
──同級生の好きな人を質問するなど、そんな他愛のないものだった──が後に当たっていると判明した。
 『こっくりさん』はしばらくの間、クラスのなかで流行したが、やがて飽きられ、同級生から忘れ去られていった。
 しかし、なぜか自分達がやる『こっくりさん』だけは、自分達の知らないことを的中させられるとわかった愛萌たち三人は、その後も三人で度々、興味のあることについて『こっくりさん』を行い、それを三人だけの秘密の遊びとして楽しんでいた。

9 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 22:01:27.54 ID:m79jFhoXd.net
「ま、あれくらいだったらね」美玖が『こっくりさん』の相棒である菜緒のほうを見る。
 今までに至るまで、菜緒とともに数多くの占いをこなしてきた美玖は、すでに自分たちのする『こっくりさん』に自信をもっていた。
 その精度は百発百中といっていいほどのかなりのもので、いままでの経験からいって、指輪の場所くらいなら当てられるだろうと踏んでいた。──実際、『こっくりさん』が示した答えもかなりはっきりしていてわかりやすいものだった。
 初めは愛萌を含めて三人でやっていた『こっくりさん』が、菜緒と美玖の二人に任されたのは、過程のなかで、占いの才能──超自然的な能力といってもいいかもしれない──があるのが、この二人とわかったからだった。
 初めて『こっくりさん』をしてしばらくした頃、人数や人の組み合わせを変えたらどうなるか、と疑問を感じた三人は、試しに三人ではなく二人で、さらに組み合わせを変えてやってみた。
──秘密にしたかったのでメンバーはこれ以上増やさず、また、『こっくりさん』は一人で行うと霊にとりつかれるという噂があってのでひとりではやらなかった。
 すると、菜緒と美玖、その二人でする『こっくりさん』が1番──ほぼ百発百中で──当てられるということがわかった。
 自分がいなくても占えるとわかった愛萌は、ならば自分が巫女の姿でお客さんを集め、事務方をすればいいと思い付き、そこから今の形が出来上がった。

10 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 22:02:55.31 ID:m79jFhoXd.net
親に許しを得た愛萌は、神社の掲示板に占いの広告を貼り出し、神社を訪れる参拝客に声をかけ、社務所の一室を占い用の部屋に変えた。
 初めはごく稀だった占い目的のお客さんも、今では、週に3〜4人、多いときにはもっと訪れる。一度ここで占ってもらった人が、知り合いに勧めているのか、この神社の占いの存在と評判は人づてに広がり、リピーターもいる。
 その占いの内容が多岐に渡っているのも利用客の多さの理由だった。
事前に愛萌が依頼者に占いの内容を訊ねるのだが、転職は吉か凶かというものや、運命の人はどこにいて名前はなんというのか、というものまで様々で、また探し物の依頼も、『こっくりさん』に質問できそうな内容のものならなんでも幅広く受け付けていた。

「でもさ、なんか占いの料金、高くなってない?」
 すると美玖が、最近気になっていたことを口にした。
「うん」菜緒も頷く。
「最初は1000円ぐらいだったよね」
 この占いを始めた頃はそれぐらいの値段だったのだが、それが今や、基本2000円、質問内容によってはそれ以上、と広告の紙に記してある。
「・・・なんで?」
 二人がこころなしか冷たい目で愛萌のほうを見る。すると愛萌は、少し決まり悪そうに愛想笑しながら、
「それは・・・あれだよ・・・二人の占いにそれぐらいの価値があるってこと」と濁った口調で言った。

11 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 22:04:07.46 ID:m79jFhoXd.net
 だが、愛萌に向けられた二人の、とくに美玖の視線は緩まない。
 この占いは有料だが、占いを行う当の二人は報酬を受け取っていなかった。はじめは部活代わり、趣味のうちとして愛萌の提案を受けた二人は、報酬なんていいと首を振っていた。
 だからこそはじめは1000円という、お客さんに気持ちだけもらう程度の料金だったのだが、いまやそれは数倍に高騰している。
 そしてその儲けは当然、この神社の利益になるわけで、自分達の占いに欲を出し始めたのではないかと、美玖と菜緒は目の前の親友を見る。
「私たちを使って儲けようとしてるんじゃないの?」と怪しむ美玖。
「いやいや、そんなんじゃないって」
愛萌が慌てて首を振る。
「そりゃたしかに神社に納める分もあるけどさ、それぐらい貰っとかないと、二人にお菓子も出せないし」
そう言って愛萌は木台の上のほうを見る。
そこには、まさに美玖と菜緒二人が口にしていた、かわいくて美味しそうなスイーツがあった。
「・・・まあ、それなら仕方ないね」と美玖が頷きながら、視線を下げる。
「・・・うん」ケーキを口に運んでいた菜緒も、フォークをくわえたまま、小さく頷いた。
「納得してもらえたならよかった」愛萌が満足そうににっこり笑う。 そして巫女装束の袖口から、扇子を取り出し、それを広げてゆっくりとあおぎだした。
 とくに暑いというわけではないが、リラックスしたときにする愛萌の癖だ。
 巫女装束という古風な出で立ちで優雅に扇子を振るその姿は、学校でならった平安貴族の女性のようだった。
「最近修行忙しい?」
菜緒が愛萌に訊ねた。高校生になってから、愛萌は親のあとを継ぐべく本格的に頑張りだしているようだった。
「修行というか、ちょっと勉強してるだけだけど・・・」愛萌が謙遜して言う。
「え、じゃあさ、愛萌もお祓いとかできるの!?」と美玖。
「私は全然!」愛萌が激しく首を振った。「まだまだだよ・・・」
「ふ〜ん」
 愛萌は否定したけれど、きっといろいろ頑張ってるのだと、美玖は感じた。
「土日は予約きてるの?」
菜緒が愛萌に、週末の占いの予約について訊ねた。土日の方が、休みなので予約をよくいれている。
「えっと、うん。出来たら日曜日に、またお願いしたいんだけど」
「そっか」と美玖。
「また時間教えて」菜緒も応えた。

12 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 22:05:41.23 ID:m79jFhoXd.net
「娘さんを、ですか?」
愛萌は困惑した表情で返した。
「お願いします・・・」
目の前の女性は消え入りそうな声で頭を下げた。ゆっくりと上げた顔は憔悴しきっていて生気がない。
「はあ・・・」
愛萌はなんと返事をしてよいか、答えに迷っていた。

 学校がない土曜日の今日、愛萌は巫女として神社の掃除をしていた。
 そこにふらりと現れたのがこの女性だった。
 ものすごく元気がないのには会ったときから気になっていたが、女性は開口一番、「ここは占いをしているのですか?」と訊ねてきた。
 生気を失った女性の表情と雰囲気にただならぬものを感じていた愛萌だったが、いつもどおり、この神社では占いも行っている旨の説明をした。
 すると女性は、占いをお願いしたいとこたえたので、愛萌はどんなことを占いたいのか、詳しい話を訊こうと、社務所のなかに案内した。
 女性から話を聴いた愛萌は困惑した。女性が占いたいその内容──それは、行方不明になった娘を探してほしいというものだったのだ。
 女性によると、2週間ほど前から、学校にいったはずの娘が家に帰ってこなくなったらしい。その娘を占いで探してほしいというのだ。
「警察には言ったんですか・・・?」
 行方不明という信じられない内容の話に驚きながら、一応話を聴いた愛萌ではあったが、そういうことはまずは警察に、とやんわりと依頼を断ろうとした。このような依頼は、応じられる範疇を超えると感じたからだった。
 しかし女性は首を振る。警察への届け出はしたものの、事件事故の可能性が見当たらず、単なる家出として処理されてしまったらしい。 そして、なんの手懸かりもないまま、2週間たつというのだ。
「どうか・・・どうかお願いします」
女性が項垂れるように頭を下げる。
「わかりました・・・。出来るだけのことはやってみます」
愛萌はそう答えるしかなかった。

13 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 22:07:54.43 ID:m79jFhoXd.net
「ということなんだけど・・・」
次の日の日曜日、前に言っていた占いが終わったあと、愛萌は昨日のことを二人に打ち明けた。
「えっ・・・」
「行方不明・・・」
美玖も菜緒も戸惑った顔をしている。
「そうだよね・・・」
二人がそのような反応を示すであろうことを予測していた愛萌は、自身も戸惑っていると言ったうえで、
「でも、お母さん、本当につらそうだったの・・・一応でいいから、やってくれないかな・・・?」
と無茶を承知で、二人にお願いした。
「・・・・・・」
沈黙が流れる。
「・・・いいじゃん、やってみれば」
口を開いたのは、美玖だった。
さっきは戸惑いの色を見せていたが、今は好奇心のほうが勝ったのか、前向きな強い眼差しを二人に向ける。
「なにか分かるかもしれないし、やれるだけやってみようよ」
──私と菜緒の二人ならできる。
こんな依頼は未経験であったが、美玖には過去の実績からの自信があった。生来の負けん気も、その背中を押す。
「・・・うん」菜緒も頷く。
「・・・ありがとう!」
友の言葉に、愛萌は嬉しそうに顔をほころばせた。

「それで、どんな娘なの?」
話が前に進みだした。菜緒が愛萌に訊ねる。
「富田鈴花ちゃんっていう、高2の子」
「えっ同い年じゃん!うちの学校!?」美玖が驚いた。うちの学校に、行方不明の生徒がいるなんて聞いたことがないが。
「いや、学校は北高なの」愛萌が説明する。「北高なんだけど、家はここらへんなんだって」
「へえ」
「なにか、手がかりはないの?」菜緒が訊ねた。
菜緒と美玖の二人がする『こっくりさん』にはいくつかの経験則がある。その一つに、こっくりさんに質問したい対象のことを、二人が詳しく知っていればいるほど、占いの精度が増すということがわかっていた。
 例えば、「佐藤さん」について訊ねるにしても、その人がどこの「佐藤さん」なのか、下の名前や顔を知っていると、『こっくりさん』の答えも、絞られたものになる。
「あ、うん」愛萌が応える。
「まず、冨田さんのお母さんに、占いをやってみるって伝えるね。そしたら、詳しいことも訊けると思う」
「占いはどうする?お母さんと三人でする?」と美玖が訊ねる。
「うん。三人でやってくれる?」冨田鈴花のことを知らない二人でやるよりも、母親を含めた三人でやれば、『こっくりさん』も答えやすいだろう。
「お母さんと連絡とってみるね。」愛萌は二人に言った。「日時はまた連絡する」

14 :名無しって、書けない?:2018/09/08(土) 22:09:23.52 ID:m79jFhoXd.net
 後日、愛萌から、冨田鈴花の母親が神社にやって来るという旨の連絡を受けた二人は、学校が終わった午後5時頃、ともに宮田神社を訪れた。
 社務所の一室に入ると、先に帰っていた愛萌が、一人の女性と一緒にいた。
「ごめんね、ありがとう」
部屋に入ってきた二人を愛萌が立ち上がって迎える。
「この方が冨田さん」そう小声で、部屋に座る女性を示した。
女性は力のない瞳で、菜緒と美玖、二人の少女を見上げた。
「こんにちは」二人が、すこし緊張した声で挨拶する。切羽詰まった悲壮な感じを、冨田の母親から感じたからだった。
「この二人が、占いをしてくれます」愛萌が間をとりなす。
「早速、始めましょう」

 菜緒と美玖の二人は、今回は巫女装束に着替えず、制服姿のまま木台に着いた。愛萌に案内されて、富田の母親も木台を前にして座る。
「これが、富田鈴花ちゃん」愛萌が二人に一枚の写真を差し出した。
富田の母親に事前にお願いしておいた、娘の写真であった。
「この子が・・・」二人が写真を覗き込む。写真はどうやら高校の入学式の時のもので、学校の校門前で鞄を両手で持って、こちらに微笑む少女の姿があった。 
 黒くてまっすぐな長い髪を持ち、しっかりとして真面目そうな顔立ちの少女だった。
「ありがとう」二人が写真を返す。一応、これで『こっくりさん』のターゲットをいくばくか絞ったことになる。
「説明した通り、この神社では『こっくりさん』で占いを行います」愛萌が富田の母親にむけていいながら、文字盤の紙を取りだし、木台の上に広げた。
そして、五円玉を文字盤の上、『はい』と『いいえ』の枠の中央に置く。
「指を当ててもらえますか?」
愛萌が富田の母親に言った。
言われた通り母親は五円玉に人差し指をのせた。それを受けて、菜緒と美玖がそれぞれの人差し指を五円玉に当てる。
「二人とも、お願い」愛萌が小さく言った。
菜緒と美玖は視線を交わし、小さくうなずいてから、声を合わせて『こっくりさん』に呼び掛ける。
「こっくりさん、こっくりさん。いるのでしたら、返事をしてください」
しばらくの沈黙。二人はもちろん、富田の母親も、疲れた顔をしているとはいえ、緊張した目で五円玉を見つめていた。
すると、五円玉がす、す、と動き始めた。
それまで無言だった富田の母が、はっと息を飲むのが聞こえた。
 ごくゆっくりとした動きで、五円玉は文字盤の右方向──『はい』の枠へと進む。
そしてその枠のなかに入り、そこで止まった。
 美玖が菜緒のほうを見る。菜緒も美玖と目を合わせ、二人は頷いた。
 『占い』の準備はできた。

15 :名無しって、書けない?:2018/09/09(日) 19:40:11.51 ID:3h6wViGud0909.net
『こっくりさん』になにを訊ねるかは、愛萌と菜緒、美玖の三人であらかじめ決めていた。代表して菜緒が質問する。
「こっくりさん、こっくりさん。富田鈴花さんはいまどこにいますか?」
まずはこの質問でざっくりと訊きだし、その答えに不明瞭なところがあれば、そこをさらに詳しく詰めていくつもりだった。
 わずかな静寂のあと、五円玉がゆっくりと動き出した。
『はい』の枠から左に動いたあと、下のほうへ動いていく。
向かう先は『あ行』の枠だ。
『あ』を通過し、『い』も通過する。『う』の枠に入って──そこで止まった。
一文字目は『う』。菜緒と美玖は次の動きを待つ。
すると今度は、右に向かって動き出した。
五円玉はゆっくりとだが止まることなく文字盤を横断し、『ら行』の『る』に入った。そしてそこから上に向かって方向転換する。
そして『ら』で動きを止めた。
次の動きがないかしばらく待つ。しかし五円玉は動きを止めたままだ。
「うら・・・?」
美玖が小さな声で言う。五円玉が完全に静止したあたり、これが一つ目の答え──富田の居場所を示すヒントだ。

16 :名無しって、書けない?:2018/09/09(日) 19:40:45.24 ID:3h6wViGud0909.net
「こっくりさん、もう少し教えてください」
まだあまりに抽象的なので、菜緒がさらに『こっくりさん』
に訊ねる。
すると、三人の指を乗せた五円玉は再び動き始めた。
五円玉はさきほどの『ら』から、右に向かって動き出した。
そして『た行』に入ったのち、今度は下に向かって移動する。
『ち』・・・『つ』・・・『て』。
──『て』で一旦五円玉は動きを止めた。
そして、しばらくして、また別の方向に動く。
三人はそれをじっと見守っていた。
次に五円玉が止まったのは再び『ら』の枠であった。そして、五円玉はそこから動かなくなった。
『て』『ら』──『寺』だろうか。
美玖が菜緒のほうを見る。合点した菜緒は、いま一度『こっくりさん』に訊ねる。
「こっくりさん、こっくりさん。富田鈴花さんがどこにいるか、もう少し教えてください」
そう質問し、しばらく待つ。
だが、五円玉はいっこうに動くことはなかった。

17 :名無しって、書けない?:2018/09/09(日) 19:41:26.16 ID:3h6wViGud0909.net
「質問のしかた、変える?」
美玖が小声で菜緒に相談した。経験上、もう少しヒントがもらえるものと踏んでいたのだが、『うら』と『てら』では、今一つ足りない。
「うん・・・」
菜緒が迷った表情で返した。
「あの・・・」
ここで富田の母親が口を開いた。菜緒と美玖、そして彼女らを見守っていた愛萌が、そちらを見る。
「娘が生きているか、訊いてもらえませんか・・・」

18 :名無しって、書けない?:2018/09/09(日) 19:42:12.96 ID:3h6wViGud0909.net
「それは・・・」
三人がそれぞれ気まずい顔をした。
娘が行方不明になった富田の母親にとって、いま、まず知りたいのは娘の安否だろう。
しかし、そのような露骨な質問をするのは気が引けた。
もし、「生きていますか」と訊ね、『いいえ』と答えが出ようものなら、富田の母親はどれほどのショックを受けるだろう。
「お願いします・・・」
母親が弱々しい声で頼む。
「わかりました・・・」
迷いのある表情で、菜緒が頷いた。
「こっくりさん、こっくりさん。富田鈴花さんは生きていますか」
沈黙が流れる。菜緒と美玖は、五円玉が動き出すのを待った。

しかし、いくら待っても五円玉は動かなかった。

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